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年間250件のSNS分析をする私が「鬱憤」の投稿を追いかける理由

 企業やブランドが信頼を得るためには、「生活者の課題=イシュー(※)」に向き合い、これを解決していくことが重要ですが、そのためにはまず、ブランドが取り組むべきイシューを探さなければなりません。

 今回は、このイシューを効率よく見つけるソーシャルメディアの分析手法「ソーシャルハンティング」、生活者の投稿に表出する「鬱憤」に注目し、狙い撃ちで検索していくアプローチ「WARPATH」についてご紹介します。

 (発見したイシューをアイデアに転換する発想の「8つのコツ」については、下記のnoteにまとめています)


 こんにちは、”ソーシャルハンター”の鶴岡です。この肩書を初めて見る方は頭の中が「???」になるか「軽薄そうなやつが出てきた!!!」と沸き立っているかのどちらかだと思いますが、私はソーシャルメディア分析を専門としており、電通PRコンサルティング独自のインサイト分析手法「ソーシャルハンティング」を担当しているため、“ハンター”を名乗っています。マタギを生業にしているということではございません。

 インサイトとは、マーケティング用語で「消費者の中でまだ顕在化していない無意識的な欲求や不満」を指し、これを的確に捉えることがプランニングにおいては不可欠です。本記事では、年間250件以上の分析を行うハンターの私が、どのようにソーシャルメディア上のインサイトを見付けているのか、ということに加え、生活者のインサイトが表出しやすい「鬱憤」に着目したアプローチについてお話しします。

「イシュー」という言葉は、「長い時間をかけて解決する社会的課題」という意味で用いられることが多いですが、今回は「個々人が不具合を感じる生活者視点の課題」と定義しています。


定量で全体傾向をつかむ「リスニング」、n=1の声に注目する「ハンティング」

 ご存じの方も多いかもしれませんが、Twitterなどのソーシャルメディア上に投稿される、自社のブランドや製品・サービスに対する評判・改善点などを定量的に調査・分析することを「ソーシャルリスニング」といい、近年、商品開発やリスクマネジメントなど、あらゆるビジネスの場面で導入されている手法です。

 対して、「ソーシャルハンティング」は、ソーシャルメディア上の「n=1」の投稿、つまり個人一人一人の声を分析し、生活者の中でひそかに関心事やイシューになっている(なり始めている)兆しを捕獲する独自のインサイト分析手法です。

 ソーシャルハンティングが既存のソーシャルリスニング分析と最も違う点は、定量的な分析では埋もれてしまう「n=1」の声に着目することです。ソーシャルリスニングは、投稿量やポジティブ/ネガティブの割合など定量的に全体傾向をつかむのに適していますが、その分、多数派でない声は埋もれてしまいます。一方、ソーシャルハンティングでは定量分析では把握できない、n=1の感情や行動、状態を表す投稿を探しにいきます。(どちらも大事!)

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無限に広がるソーシャルメディアはインサイトが漂う宝庫

 例えば、「育児」に関する商品やサービスのプランニングをする際には、「世の中にはどんな育児の困りごとがあるか」を把握しなければいけません。

 そこで、ソーシャルハンティングすると「育児の正解が分からない」「育児がうまくできなくて親としての自信が持てない」などの投稿が見つかります。その不満や鬱憤をグループ化して「育児が上手くできなくてパパ・ママ肯定感が下がる問題」と名付けます。このように、マスメディアでは取り上げられていないものの、言われてみればなるほどと納得してしまう意見や出来事を、「○○問題」「○○説」と新たに名付け、イシュー化するということをソーシャルハンティングでは行っています。

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 まだ世の中では話題になっていないものの、言われてみれば共感できる「生活者の本音」は、実は投稿の形で表に出ています。とりわけ、困りごとや不満、鬱憤に関わる投稿にはインサイトに直結するようなヒントがあることが多いです。そのような投稿に注目し、グループ化していくことで、イシューや関心事の根っこにあるインサイトを言語化することができますし、ターゲットの置かれている状況やターゲットの詳細も可視化することができます。

 ソーシャルメディア上には、誰に頼まれずとも、生活者の本音が今この瞬間もリアルタイムに発信されており、まさにインサイトの宝庫といえるでしょう。個人や企業・組織がオンライン上に残すあらゆる活動の痕跡(データ)は、「外部=アウトサイド」に表れる貴重なインサイトという意味で「アウトサイド・インサイト」とも呼ばれています。対面では内側に秘めている心情も、ソーシャル上の世界ではアウトサイド・インサイトとして「見えるもの」になっています。かつ、一人で複数のアカウントを持ち、ソーシャル上での顔を使い分ける人さえいる時代です。人格を使い分けた上で、現実世界では言葉にすることのできない本音を多く投稿しており、この宝の山をPRプランニングに使わない手はありません。

 

ソーシャルハンティングを活用したPR事例「#推し見逃さない」

 では、ソーシャルハンティングで見つけたイシューや関心事はプランニングにどのように生かすことができるのでしょうか。PRX Studio Qが携わった事例をひとつご紹介します。

 ジョンソン・エンド・ジョンソン ビジョンケア カンパニーでは2020年、目に入る光の量を調節する機能を持つ製品「調光コンタクトレンズ」をより広いターゲットに訴求する方法を模索していました。

 そこで「生活者がクリアな視界でいたい場面」についてソーシャルハンティングを行ったところ、「ライブや映画・舞台などのイベント前には目にいいブルーベリーのサプリメントを飲む」という投稿を見つけました。 若者を中心に、好きなアイドルや俳優を「推し」と呼ぶ人が多くいますが、この推しをクリアに見るためにライブや舞台の前に、「コンタクトデビューした」、「駆け込みで眼鏡の度数を調整した」、「目薬を購入した」などの投稿も見られ、推しを一瞬たりとも見逃さないために視界のコンディション調整に余念がないファンの姿が浮かび上がりました。

 この結果から、「推しを一瞬でも見逃したくないのに、いつも通りの視界では限界がある問題」を生活者サイドのイシューとして設定。「#推し見逃さない」をメインコピーに、TVCMやWeb動画、Twitterキャンペーンを通じて、このイシューを解決する商品としてベネフィットを訴求するPR活動を展開しました。

インサイトを狙い撃ちで探すアプローチ「7つの鬱憤 WARPATH」


 Qでは、とてつもなく広いソーシャルメディア上で、効率よくインサイトを見付けるために、鬱憤に着目したアプローチを「7つの鬱憤 WARPATH」にまとめました。

 ソーシャルメディアの中でもTwitterは特性上、感情が表れやすいメディアです。感情が爆発する一歩手前の鬱憤を狙い撃ちで検索するために、不満をまとうワードを整理し、「Want=欲求」「Anti=反感」など7つの感情ごとにまとめ、それぞれの頭文字から「WARPATH」と名付けました。(英単語「warpath」は、「敵意のある」「けんか腰」という意味があり、争いに発展する直前のようなニュアンスを持つ言葉でもあります!)

 たとえば、「Want=欲求」であれば、「したい」「ほしい」「したくない」などの「欲求」に当たるワードを掛け合わせて検索することで、欲求が表出した投稿に迫ることが可能です。 

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 先ほどの「ライブや映画・舞台などのイベント前にはブルーベリーサプリメントなどを摂取する行動」に関しても「オタク×視界×したい」で過去の投稿を検索した結果、「ブルーベリーサプリをおすすめしたい」投稿が見つかり、推しのために視界をクリアにしたいというインサイトがあることが分かりました。

 このようにして、調べるテーマに「7つの鬱憤 WARPATH」にまつわるワードを掛け合わせて投稿を検索することで、イシューや関心事、インサイトへの近道・ヒントになる生活者の声を見つけることができます。

 企業やブランドが取り組む生活者の課題を見つけるためには、まずは鋭いソーシャルハンティングから。「世の中視点」のイシューや関心事そしてインサイトを見つけたい時に、n=1の投稿に着目するソーシャルハンティングを思い出してください。

ツール図warpath

〔参考〕こちらの記事では、ソーシャルハンティングから派生した、世の不満を“言語化”しやすくするフレーム「鬱憤構文」を紹介しています。あわせてご覧ください。


PRX Studio Q (電通PRコンサルティング)では、企業やブランドのPR戦略立案から企画、実行までをワンストップで対応いたします。今回ご紹介したソーシャルハンティングやPRスキルアップセミナー、アイデア発想ワークショップなども行っています。ご要望に合わせて柔軟に対応いたしますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。