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日本代表の2人が徹底的にひも解いてみたソーシャルイシューからアイデアへのアプローチ法「COREIDEA」で見る6事例【カンヌライオンズ2022】

前回の記事では、世界最大のクリエイティビティの祭典「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」の今年の傾向を6つのキーワードで解説しました。

ここからは、PR部門以外も含めて特に引き付けられた6キャンペーンを、イシューからアイデアへ発展させるアプローチ「CORE IDEA」の視点で、ヤングカンヌ PR部門国内代表の佐藤佑紀・森光菜子が大解剖していきます!
(CORE IDEAについてはこちら → https://note.prx-studio-q.com/n/n2a7de86437ec

アイデアの切り口に困ったら「COREIDEA」!
会場に掲出されるPR部門ショートリスト以上の受賞エントリー


全米ライフル協会(NRA)の元会長や銃規制に異を唱える著名人を、「架空の高校の卒業式」に招待し、そのリハーサルと称してスピーチを行わせました。その年、銃乱射事件により亡くなった3044人分の空席が設置された会場に向かって「あなたたちには明るい未来が待っている」と言葉を贈る様子を動画で撮影。動画は3本、うち1つは実際に銃乱射により子どもを亡くした両親が実際に椅子を並べ、会場を作っていく動画で、銃規制を直接的に訴える内容です。このプロジェクトは少額のメディア予算で合計14億回インプレッションを達成。

ある種、過激ともいえるこの施策。息子を亡くし、Change The Refの代表を務める、Manuel Oliver氏も現地セミナーに登壇しました。会場から寄せられた、「訴えられた場合はどうしたのですか?」という質問に、「彼らの弁護士は、訴訟すればさらに多くの人にこの動画がさらされることを理由に止めるだろう」とコメントしました。ある種ドッキリのような形式で撮影を敢行し、数十分後には動画をアップロード、記者からの取材に応えさせた上で、訴訟されないことを念頭においた計画性もありました。

 ▼佐藤・森光の所感2021年に銃乱射で亡くなった生徒を「2021クラス」という形で可視化した、その可視化の方法は秀逸だと思いました。目に見えない数のインパクトをカタチにすることで、その物事の重大さにはっとさせられ、世の中が動く。可視化という視点で学びがある事例です。 

レザー生産は石油産業の次に環境汚染につながるともいわれています。(薬品資料による水質汚染など)世界最大のパイナップル生産者の1つであるDoleは、廃棄されていたパイナップルの葉を使い、持続可能な革の代替品を開発し、ファッションブランドに新素材「Piñatex」として提案。
この活動は、環境問題だけでなく、フィリピンの農村地域の雇用の創出(葉の収集、繊維の抽出、ロジスティクス、品質管理システムなど)につながり、経済的なエンパワーにもつながっています。現在、ヒューゴボス、H&M、ナイキといったトップブランドを含め、80カ国以上の200以上のブランドがPiñatexを使用しています。

Doleのグローバル最高マーケティング責任者RupenDesai氏は、「この規模と複雑さをもつイノベーションは、サプライチェーン、調達、財務、イノベーション、製品開発、マーケティング、クリエイティブに至るまで、コラボレーションによって実現された」と述べています。
まさに、前段で述べた「Creativity for Grouwth」と「Collaborativity」の視点を兼ね備えたプロジェクトであり、PR部門以外でもCreative Business Transformation部門のグランプリをはじめ、2つのゴールド、1つのシルバー、2つのブロンズを受賞するなど、今年のカンヌの象徴的なキャンペーンになりました。

▼佐藤・森光の所感
自分の担当するクライアントやブランドが大量にゴミを出していないか、などを見直してみることによっても、ブランディングのブレイクスルーのきっかけとなるかもしれません。
 

 世界中で5人に1人が「ディスレクシア(読み書き障がい)」の影響を受けていますが、人口の97%はその症状に対して否定的です。その大きな理由は、ディスレクシアが「医学的障害」と分類されているためです。
この施策では、ヴァージン・グループの会長であるリチャード・ブランソン氏をはじめとする、ディスレクシアのある人々の才能、すなわち「芸術、スポーツ、グラフィックデザイナーなどのクリエイティブな仕事で活きる視空間能力」に焦点を当て、「Dyslexic Thinking」という言葉を開発。スキルとして再解釈することで、世界最大のビジネスソーシャルメディア、LinkedInに個人プロフィールのスキルとして選べるようにスキルリストに追加しました。
世界一のWeb辞書であるDictionary.comにも、「Dyslexic Thinking」という単語が追加され、ソーシャルメディア全体で、ディスレクシアについての肯定的な言及は1562%増加しました。

リチャード・ブランソン氏がディスレクシアであることは、周知の事実であり、過去をさかのぼれば、アガサクリスティ、アルバート・アインシュタイン、スティーブ・ジョブズなどがディスレクシアを公表しています。紹介動画内では教育の専門家、企業経営者、オーランド・ブルームやキーラ・ナイトレイといったセレブリティも当事者として声を上げ、スキルとしての「Dyslexic Thinking」がいかに自らを救ったかを語ることで、「圧倒的な納得感」を示しました。

▼佐藤・森光の所感
さまざまな課題に立ち向かうことが求められる現代は、自分とは異なるスキルを持つ人々と協力し、混ざり合っていくことで力を発揮します。一方で、自分とは異なる性質を受け入れることは簡単なことではない。そこに「新たな単語(スキル)を開発する」という極めてシンプルなアイデアを採用することで、人々が混ざり合うきっかけをつくり、当事者に自信をつける、非常に現代的ですてきな、2人とも大好きな施策です。

毎年 1,400 万トンのプラスチックが最終的に海へ流出という事実に対して、グローバルビールブランドのコロナ(Corona)は自然界にプラスチックを残さないという目標に向かい、史上初の「プラスチック フィッシング トーナメント」を開催。地元漁師が収穫した廃棄物を地元リサイクルセンターへと回収、海洋で見つかったプラスチック廃棄物をリサイクルし、漁師の収入源として還元していくという施策を行いました。

公式リリースによると、グローバル・リサイクル・デーの18日にメキシコ、中国、ブラジル、イスラエルで開催されたPlastic Fishing Tournamentの結果を明らかにした。計150以上のコミュニティーのメンバーが回収に参加し、15時間以上かけてプラスチックを“釣り上げ”、地元コミュニティー用のコミュニティー彫刻、輸送用パレット、ビーチウエア類などに転換されるとのこと。圧倒的な実態を残した。

▼佐藤・森光の所感
子どもの頃、ごみ拾いや片付けを「誰が一番集めれるか、競争だ!」と先生や両親にイベント仕立てでそそのかされ、半ばだまされる形で参加した経験ってどなたにもあるのではないでしょうか。この事例をみてそんな昔の記憶を思い出しました。そんな原始的なあるあるイベントを、現代のサステナビリティの文脈に落とし込み、更にコミュニティへの経済活動支援に繋げるというインパクトへ昇華させた素晴らしい施策であり、コロナの本気度がうかがえる施策であると感じました。


ドイツで最も有名な赤ワインの産地、アールバレーは2021年の夏に壊滅的な洪水被害を受けました。奇跡的に出荷可能な状態で、泥まみれで発見された20万本のワインを、新しいワインコレクションとして発売。泥まみれのボトルの外装をそのままデザインに生かし、クラウドファンディングによる販売を行いました。結果的に通常の45倍の高値で売れ、ドイツで最も成功したクラウドファンディングになりました。

ワイン生産者はもとより、地元のワイナリーを助けることによる参加者意識の構築と、災害を受けた生産者が立ち直るための新しい手法として評価されました。審査員長のJudy John氏は、「これは絶対勝つと思った。泥のついたワインを売るなんて発想!でもこれがクリエイティビティってことだと思う。歴史的なモーメントを使って、ワインセラーの再建に参加するという体験や、その証しが素晴らしいと思う。ストーリーテリングが秀逸で、PR部門の中でも好きな施策の一つです」と話しました。
 
▼佐藤・森光の所感
被害を受けた状況をそのまま生かした、逆転の発想は日本国内のPRでも多く見かけますし、そういったコミュニケーションは世界でも通用する、と感じた一幕でした。ワインセラーの再建に参加するという体験をつくり、その証しとしての「泥だらけのボトルワイン」は非常にアイコニックでした。
日本でも豪雨被害で日本酒を救済する、といった施策が有りましたが、こちらの施策はそれを駅広告やバス停の広告、ネット広告として全面的に打ち出していったところが、まだ見たことがなかったポイントだと感じました。
 

30年以上の間、米国のトップハンバーガーチェーンは、ハンバーガーのお供にコカ・コーラを提供しています。一方、競合のペプシのブラインド調査では、60%の消費者が「コカ・コーラよりも、ペプシの方がハンバーガーに合う」と回答しているとの調査結果があります。その調査結果を起点に、折り紙アーティストとコラボレーションし、ハンバーガーチェーンの外装紙を活用した広告ビジュアルを制作。米国のハンバーガーチェーンの近くに、戦略的に屋外広告を掲示しました。ソーシャルメディア上で36億回のインプレッションを獲得し、ブランドの好意度は29%増加。
 また、本施策はコロナ禍でテイクアウト需要が増えたことを逆手にとって行ったキャンペーンでもありました。テイクアウトなら店内で売っていないペプシを一緒に楽しめる、といったなんともチャーミングな対立方法かと思います。

PepsiのCMOTodd Kaplan氏と、Alma DDBのLuis Miguel Messianu氏は、それぞれクライアントと代理店の立場で、セミナーに登壇し、「法務関連の調整など繊細なコミュニケーションを実現し、このような施策を実行するにはクライアントとの親密な関係が必要。まさにコラボレーティブな関係で、月並みだが、チームメイトという関係性の構築が必要だ」と述べました。(2人はタンゴを踊りながら舞台裏にはけていきました・・・素晴らしいCollaborativity!)

▼佐藤・森光の所感
シャレの利いたカンヌライオンズらしい施策で、多数のインプレッションを集めていました。クライアントと代理店のCollaborativityも、非常に高い評価を受けている事例です。「調査結果」の見せ方として本当に面白いなと思いました。一般生活者が参加できる余白を残しておくということも学べるところです。


レバノンはひどいインフレにより人口の75%が貧困ラインを下回っていました、食料品や薬だけではなくインクまで足りないという状況のレバノン政府は、1990年より独裁政治が続いていたため、人々は来る選挙にわずかな変革の望みを抱いていました。
しかし、驚いたことに、紙とインクが足りないという露骨な言い訳を盾に、政府は選挙をキャンセルすると宣言。アン・ナハールは発言の自由とデモクラシーの確立を守るべく、彼らの発刊物である新聞の印刷を取りやめ、代わりにその紙とインクを選挙の印刷関係者に届けました。
レバノン政府に力強いデモクラシーへのメッセージを送ることとなりました。

(モーメントではないムーブメント)には、大義へのコミットメントが必要です。審査員にとって際立った作品には、ブランドの使命に根ざした目的がありました。そして創造的なアイデアと問題解決策を組み合わせ、文化的および社会的変化を刺激する力強さがこの施策にはあります。

▼佐藤・森光の所感
ペンは剣より強し、といわれたものですが、今回はインクと紙は剣より強し、を証明したなんとも力強い事例。目を引く大きなアイデアだけを打ち上げ花火的にを実施するのではなく、きちんと人々を納得させ、Annaherと共に立ち上がりたくなる導線設計がされていたことも大きなポイントかと思いました。(物理的な新聞をニューススタンドに置く代わりにQRコードを置き、印刷されなかった原因をそこで知れる設計。)その日のオンライン版は、史上最高の閲覧数を記録し、政府が紙とインク不足に関して言及することをやめたそうです。
 


国民のアイデンティティである文化遺産に対するロシア軍の戦略的な攻撃に対し、ユネスコは3D技術のスタートアップと協力し、全てのウクライナ国民に3Dモデルを作成する技術を提供。スマートフォンのカメラとGPSデータを使用して、あらゆる場所や記念碑を撮影できる無料アプリがリリースされ、高品質な3Dモデルをキャプチャできるようになりました。ローンチからわずか10日でウクライナおよび国際的な報道機関で170以上の記事露出、2.500以上のシェアと32万5000以上のビデオビューを獲得。

今年のカンヌを象徴するテーマのひとつは、言わずもがな、ウクライナ情勢でした。ロシア代理店の参加は禁止となる一方、ウクライナからのエントリーは無料とされ、402件の応募がありました。
カンヌ公式レポートは、この施策について、仮想世界を使用して現実世界の問題を強調する施策として評価。さらに、ウクライナの人々がスマホさえあれば、誰でも簡単に、3Dスキャンに参加できるという、最先端のテクノロジーへのアクセシビリティの高さも評価されたと、審査の裏側を発表しました。デジタルクラフト部門のグランプリ、ゴールド×1、シルバー×4、ブロンズ×4という圧倒的な支持を集めたキャンペーンとなりました。
 
▼佐藤・森光の所感
自分がもしこのアプリを使うとしたら、地元のランドマークや実家をスキャンしたいと思います。「自分がこの建物のことを大事に思ってたんだ」という気付きは、PRステップ【認知→意識→行動変容】のある種真逆かなと思います。【行動から無意識の意識に気付き、認知が変わる・・・】速度が速いコミュニケーションだと思います。


■今年のカンヌを振り返って

最後に、佐藤と森光それぞれから、カンヌで見聞きし体感したことを振り返ります。

✓森光菜子の視点

私はパラスポーツという、ある種「伝えなければいけないもの」といった堅いテーマと向き合ってきました。(詳しくはこちら)その中で、どうしても「伝わらないな」と感じることが多くありました。
堅いテーマでもちょっとした面白さや柔らかさが大事だなと実体験として思っていたので、「伝える」ではなく「伝わる」ためにはやはりクリエイティビティが重要であると今回のカンヌで背中を押してもらった気持ちになりました。
また、現在はサステナビリティ領域のコミュニケーションに従事しているのですが、今年のカンヌで繰り返し聞かれた「その社会課題解決はビジネスになるのか?」は心に刺さりました。良いことをしようとするとどうしても「らしさ」が抑圧され、見たことのあるようなアクションになりがちです。その「Bland(当たり障りのないもの)」をどう「Brand(独自のもの)」に昇華させていくかは私たちの命題だと思っています。 

✓佐藤佑紀の視点

とにかく刺激的な5日間で、改めてPRができることの大きさを感じました。ウクライナのコミュニケーション従事者によるセミナーでは「強大な課題に立ち向かうためにはクリエイティブの力が必要だ」と述べられており、極限の状況においてPRパーソンができることは「ピンチをチャンスに(イシューの大きさは問わない)」することであると感じました。
また、海外エージェンシーとクライアントとの関係性(コラボレーティブ)は非常に参考になりました。互いの長所を生かし合う対等なパートナー関係になること、一緒に課題に向かい合うことで、「ここまで実現できるのか!」という驚きが多かったです。僕は5年前に一度カンヌライオンズに行ったことがありましたが、その時はお客さん感覚の部分もありました。今回はヤングカンヌの日本代表として参加して、カンヌコミュニティの一員として受け入れてもらった感覚がありました。
理想のクリエイティビティを追求する人たちと触れ合うことの大切さを感じるとともに、PRパーソンとして、世界の最先端事例の集まるこのフェスティバルに参加する意義を再確認しました。

このように並べてみると、優れた施策は「COREIDEA」の何かしらの要素で斬ることが出来ると改めて確認することができました。
ソーシャルイシューをアイデアへどう変換したかを探ることが出来るので、気になる施策があれば是非、「COREIDEA」と照らし合わせてみてください!

以上、「COREIDEA」視点で斬るカンヌライオンズ2022PR部門、大解剖スペシャルでした!


今回は「カンヌライオンズ2022」のPR部門を解説しました。

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