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化石賞?草が生える紙…?PRプランナーがCOP29で見た「対話を生むアイデア」

2024年11月11日から24日まで、アゼルバイジャンの首都バクーで、年に一度開催される気候変動に関する国際会議「COP29(国連気候変動枠組条約第29回締約国会議)」が行われていたのをご存じでしょうか?

Photo: UN Climate Change - Habib Samadov

このような大規模な国際会議では、世界中のメディアが取材に訪れるため、会場周辺にはメディアが作業や報道を行うための拠点として「メディアセンター」が設けられることが一般的です。また、企業や団体がメディアに向けてアピールするための展示スペースも併設されるケースが多くあります。

こんにちは、PRプランナーの箕輪です。今回、私はCOP29の会場を初めて訪れました。

会場には、参加した国や関連団体のパビリオン(展示場)が立ち並ぶエリアがあり、さまざまな方法で自分たちの取り組みや魅力を伝えていました。NGO団体も入場が許可されており、彼らは展示スペースの横で環境問題に関する抗議活動を行っていました。

最も印象的だったのは、こうしたさまざまな発信をきっかけに、その場で対話が生まれていたことです。

今回は、世界が注目するこの舞台で、参加国や団体がどんな発信をしていたのか、COP29の会場の様子をリポートします!

そもそもCOPって?

COP(Conference of the Parties、締約国会議)は、さまざまな国際条約ごとに、加盟国の最高決定機関として設置されています。
私が今回訪問したのは、気候変動に対処するための取り組みを話し合う「気候変動枠組条約締約国会議」です。

1992年に、地球温暖化を防ぎ、気候変動の影響を軽減するために、各国が協力する枠組みを提供する国際条約としてUNFCCC(国連気候変動枠組条約)が採択されました。気候変動枠組条約締約国会議は、UNFCCCに基づいて、年に1度開催されています。

地球環境問題については、全ての国に共通の責任がありつつも、先進国と途上国とでは影響度合いと対処する能力は異なるという考え方があります。

そのため、第29回となる2024年の会議の大きな争点の一つは、途上国の気候変動対策を支援する資金額などであり、会期延長の末、2035年までに先進国側が途上国に対し年3000億ドル(約45兆円)を支援することで合意しました。

こうした背景から、本会議外でも、自らの取り組みや要求をいかに分かりやすく訴求するかは参加国/団体にとって大きなテーマでした。
 

対話の種をまくウクライナパビリオン

さまざまな国・地域・団体のパビリオンを回る中、私が最も印象に残ったのはウクライナパビリオンでした。

全体的に真っ白で非常にシンプルなデザインながら、床には光を反射する鏡のような素材が使われています。これにより、天井からのライトがパビリオン内で乱反射し、キラキラと揺れる光の演出が訪れた人々の目を引いていました。

光を反射する鏡のような素材

中でも私が引きつけられたのは、どこか異質な「壁」でした。

よく見てみると、 パビリオンの内壁に雑然と張り巡らされたA3サイズほどのざらざらとした紙は、全て再生紙と種子、花弁をすき込んで作られたものです。この紙はパビリオンを訪れた人が持って帰ることができます。(※)

パビリオンの内壁に張り巡らされた紙

この場に足を運び、紙を持ち帰った人が、それぞれの国で役目を終えた紙を土に返すことで、世界中で緑を芽吹かせることができます。 

COP29のテーマは“In Solidarity for a Green World”(緑の世界への連帯)。ウクライナパビリオンでは、あらゆる環境問題解決に対するイノベーションの訴求とともに、無駄なごみを出さず、「土に返し、緑を生む」という最もシンプルなかたちで今年のテーマに答えていると感じました。

この展示は、もちろんその場でも対話を生んでいましたが、「紙を各国に持ち帰る」というアクションを促すことで、世界中で対話を生むきっかけをつくり出していたのではないでしょうか。

再生紙と種子、花弁をすき込んで作られた紙

私も実際に、日本に帰ってきて同僚にこの話をしました。つい誰かに話したくなるアイデアは、PR視点でも非常に参考になるものです。

このように、パビリオンの役割が単なる展示だけではなく、ディスカッションのきっかけになっていたことも印象的でした。

各パビリオンでは、イノベーションや環境問題の解決策を提示するにとどまらず、連日有識者や担当者がパネルディスカッションを行います。

一般生活者や民間企業、メディア関係者、学者、NGO団体、さまざまな人が訪れ、意見を交換し新たな道を模索することを重視しているのがよく伝わりました。

また、その場に有志で集まった少人数で語り合う、より敷居の低い議論の場もあり、実際に会場を歩いていると、頻繁に他国のパビリオンスタッフから声をかけられ「このあとディスカッションに参加してみない?日本代表として意見を言ってくれる人を探しています」という誘いを受けました。

生まれも育ちも違う人たちと膝を突き合わせ、それぞれの国のお菓子をつまみながら会話するこの場は、いつか世界を変えていくきっかけになり得る貴重で尊いものだと強く感じました。

※他国の種子の持ち込みには各国の規定があります。

ブーイングは異常な一体感!非公式に贈られる不名誉な「化石賞」

COP29の会場では世界のNGO団体が日々抗議活動を繰り広げていることも、初参加の私としては驚きでした。その中でも有名な催しで、会期中毎日夜6時頃に行われる“Fossil of the Day”(化石賞)の授賞式は非常に印象的でした。

化石賞の会場。有名な恐竜映画をオマージュしたビジュアルが使われている

化石賞とは、その日の会議で議論を止めるような発言を行うなど地球温暖化対策に前向きな姿勢が感じられなかった国を、主催のNGO団体が選び、勝手に賞を贈るというものです。

この不名誉な賞は、第5回のCOPから続けられており、「化石燃料」と「考え方が化石である(=凝り固まって、アップデートされていない)」という二重の意味から名付けられています。COP公式のプログラムではないにもかかわらず、世界中のメディアを含む参加者の注目を集め続けています。

その場に集う人々が“Fossil of the Day”を有名な恐竜映画のメロディーに乗せて合唱しながら発表を待つ瞬間と、発表された国に対して一斉にブーイングする瞬間の一体感は、一般的な抗議活動では創出できないものでしょう。

化石賞の授賞式を撮影する人々

アクションする側と傍観する側にはっきりと分かれがちな抗議活動が多い中で、参加するハードルを下げ、主催者と参加者の境界線があいまいになるような場の空気のつくりかたには驚きました。

もちろん、このような授賞式を行うことには賛否両論あります。ただ、ストレートに批判するのではなく、ユーモアを盛り込むことで、みんなが話題にしやすくなり、対話を生むきっかけとなるアイデアだと感じました。

どうすれば、誰かに話したくなるか?

COP29の会場には多くの展示とパネルディスカッションが繰り広げられていましたが、ここでは「対話を生むアイデア」に焦点を当ててご紹介しました。

実は、ウクライナパビリオンの仕掛けを私が最初に知ったのは、現地で知り合ったメディアの方との会話からでした。実際に見に行った後に、他の方にこのパビリオンが印象深かったことを思わず伝えました。化石賞も人づてに聞いたのが最初です。

Photo: UN Climate Change - Habib Samadov

誰かに伝えたくなるアイデアは、つまり、対話を生むアイデアです。
過去にいくつか国際会議のような場に参加して感じたのは、どこの国でも、面白い展示や印象に残った催しを共有し合うのを好む人が多いということです。

どうしたら人に話したくなるか?という視点でアイデアを考えることで、情報が広がりやすくなると改めて感じました。

なお、COP29の会場にはジャパンパビリオンも出展されました。今回は”Solutions to the World”をテーマに日本の技術・取組みを紹介しており、多くの参加者から注目を集めていました。

大きな舞台になればなるほど、さまざまなステークホルダーの目線があり、情報を正しく伝えることのハードルは上がります。環境問題に関しては、SDGsの言葉が使い古され、ともすれば「グリーンウォッシュ」が指摘されることも増えたいま、一方的な主張は人々に受け入れられづらくなっています。そうした中で、世界の人々と建設的な議論ができる話題、場所の創出はますます重要になると感じています。


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