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カンヌライオンズ2024 PR部門グランプリ解説:元日本代表が勝手にアイデア解剖!ここがすごかった⁉︎

今年6月にフランスのカンヌで開催された、世界最大のクリエイティビティの祭典「Cannes Lions International Festival of Creativity 2024(カンヌライオンズ2024)」

受賞作品をただ「面白いな~」と眺めているだけではもったいない!「どのようにアイデアが設計されているのか」「なぜ世の中の注目を集めたのか」という視点で分解してみることで、今後のプランニングの参考にできると考えています。

こんにちは!毎年カンヌを楽しみにしているカンヌウォッチャー兼PRプランナー森光です。

私自身も2022年に、ヤングカンヌPR部門国内代表として現地に赴いたことがあります。

今回は、PR部門のグランプリを受賞した施策について、そのアイデア設計のポイントに着目して解説します。(※あくまで個人の見解です)

【PR部門グランプリ】THE MISHEARD VERSION

〔背景〕
日本では健康診断でも定期的に行われる聴力検査ですが、イギリスでは、難聴を老化と捉え、検査を先延ばしにしている人が多くいます。
かつて行われた受診促進のコミュニケーションは、恐怖や危機感をあおることで行動変容につなげるもの(=恐怖訴求)がメインで、人々は難聴に対して向き合うことをより怖いと感じていました。
しかし、聴力検査は、心臓疾患、認知障害、アルツハイマー病、糖尿病や高血圧などの慢性疾患の兆候を発見するきっかけにもなるため、検査を受けることは、聴力を測ること以上の意味を持ちます。
聴力検査を避ける人が増えると、イギリスの公衆衛生にも影響が出る可能性があります。

〔施策概要〕
アイケアブランドで聴覚分野にも進出しようとしていたイギリスの「Specsavers(スペックセーバーズ)」が、聴力検査を促す施策を実施。
歌詞を聞き間違いやすい曲として有名だった同国のアーティスト、Rick Astleyの曲“Never Gonna Give You Up”を、本施策ではあえて間違えられている方の歌詞で再レコーディング。間違った歌詞で歌われていることを明かさずにリリースしました。
曲を聞いた人々からは「あれ、こう聞こえるけど本当?」「自分の聞き間違い?!」などと反響が生まれ、みんなの「聴力」が国民的な話題に。”空耳の代表曲”を、人々が自分の聴力について立ち止まって考えてみる装置に転換しました。曲は8時間で2,000万回以上再生され、多くのメディアで報道された上に、スペックセーバーズでの聴力検査の予約が目標を1220%上回る結果につながりました。

【ここがすごい!】聴力検査を「一人でするこわいもの」から「みんなでする楽しいもの」に


本施策は、スペックセーバーズの「みんなに聴力検査を受けてほしい。難聴にまつわる恐怖心を払拭したい」という課題感を起点にしていると考えられます。

ただ、前提として、難聴に向き合うことを避けてきた生活者に、実際に聴力検査を受けてもらうように行動変容を促すことはかなりハードルが高いでしょう。

ポイントは、『どうやったらみんなが自分の聴力に関心を持つか?』という視点です。みなさんならどう考えますか?

スペックセーバーズは、恐怖訴求をしたり、インセンティブを付与したりするのではなく、聴力検査そのものを「一人で受診しなければいけない恐怖の対象」から「みんなで参加したくなる楽しいもの」に変えてしまったのです。そうすることで、本来の目的である「聴力検査の促進」にダイレクトにつながっています

みんながつい耳を傾ける舞台を自ら作り出し、満を持して登場する

同社は本施策のインサイトを、「難聴は孤立を招くが、聞き間違いはつながりをもたらす」と表現しています。

「私はこう聞こえたけどみんなは?」「こんな変なワードに聞こえる(笑)」など、空耳、つまり“聴力検査の結果”を思わずシェアしたくなって、それを聞いた人が「私も聞いてみたい」と自然と参加し、つながっていくー。スペックセーバーズは、こうしたサイクルが生まれ、聴力への関心が最も高まったタイミングで、「ちなみにちゃんとした聴力検査はここで受けられますよ」と自社のサービスについて情報提供をし、自然な行動変容の獲得につなげています。

企業の独り善がりなタイミングではなく、みんなが今知りたいと思うであろうタイミングを自らつくり、そこで満を持して登場しているところが秀逸です。


おまけ「隠されたものを見たくなる人々の心理」

今年のカンヌライオンズでは、空耳や間違い探しのように、「隠されたものを見つけたくなる」という人間の心理を生かした施策がいくつかありました。

隠されたものが何か推測することや、見つけた時の喜びを伝えることは、投稿・拡散に直結するため、話題化につながりやすいです。前出の「空耳」施策のように、恐怖ではなくポジティブな感情の波及を狙う方が、この手の施策と相性が良さそうです。

今回は、2つの事例を以下にご紹介します。

〔事例1〕正体を隠す:MEET MARINA PRIETO(CASE STUDY)

新型コロナウイルス感染拡大以降、世界中で交通媒体での屋外広告の売上が減少。そこで、世界最大の屋外広告会社「JCDecaux」はある”ふつうの100歳のおばあちゃん”のInstagramアカウントを立ち上げ、彼女の日常を投稿。54個の投稿画面をそのまま広告にしてマドリード市内に大々的に掲出しました。

正体の分からない高齢女性の広告に、見た人は「誰?」「また彼女を発見した!」と関心が高まり、メディアでも報じられました。写っているのが一般人であっても話題になったという現象から、屋外広告の影響力を改めて示しました。結果、185の新規クライアントを獲得するに至った、チャーミングな施策です。

〔事例2〕商品に賞品を隠す:RICE OF GLORY

エクアドルは米の消費量が多く、多数の「米ブランド」が存在します。競合がしのぎを削る中で、国内1位を誇るSUPER EXTRAは「ダイナミックかつとっても小さなある施策」を仕掛けました。それは、20万袋の米のうち20粒に、それぞれ違う賞品を描いたイラストを仕込むというもの。イラストが描かれた米を発見した人は、描かれている商品を手にできます。

結果、人々は20粒の米を当てようと必死に探し、買い求め、大きな話題を呼びました。(ちなみに3粒はまだ行方不明中のようです)。

世界中の興味深い施策が集まるカンヌライオンズですが、こうして「どこがユニークなポイントなのか」「世の中の意識や行動を変えるポイントとなったのはどこか」と一つ一つ分解してみると、日頃のプランニングのヒントも見つけられそうです。

昨年のカンヌライオンズもこちらで解説しています。森光の昨年の解説記事は、こちら。


今回も、お読みいただきありがとうございました。

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