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メディアリレーションズで目指す「理解関係」とは?|PRの先輩に聞いてみました

企業/ブランドのPR・広報担当者にとって、多忙を極める記者・編集者・ディレクターに話を聞いてもらったり、関係を築いたりすることは、ハードルの高い仕事の一つではないでしょうか。コロナ禍で、さらに難しくなった…という声もよく聞きます。

メディアにお話を聞くと、毎日たくさんのプレスリリースが届いたり情報提供があったりする中で、「なかなか全てに目を留め、耳を傾けることは難しい」といいます。

そこで重要となってくるのが「メディアリレーションズ」

PR・広報担当者が、メディアに「この人だから手を止めて、話を聞こう」と思ってもらえるリレーション(関係)を築くには、どうすればいいのでしょうか。

こんにちは、元記者・PRコンサルタントの平林です。

今回は、メディアリレーションズの秘訣について、PRプロフェッショナルの先輩・細田知美に取材しました。

Forbes JAPAN 執行役員 Web編集長 谷本有香 さんは、細田を「提供したいネタがあるときだけ連絡してくるのではなく、常にメディアのことを考えてコミュニケーションを取り続け、問題意識や時代の捉え方を共有してくれる」と信頼し、いくつも企画を共創しています。

(細田への評価をもとに、谷本さんが信頼するPRプロフェッショナルのポイントについて、記事後半で詳細に掲載しています)

そんな細田が大切にしているメディアとの関係性=お互いの思いや感性に共感し合い、コンテンツを共創する「理解関係」について、話を聞きました。


細田知美

細田知美  プロフィール 
ほそだ・ともみ

日本大学芸術学部美術学科卒業後、ジュエリー・アクセサリーデザイナーを経て渡仏。パリコレなどに携わりながら5年滞在。帰国後は3人の子育てに専念し、専業主婦10年のブランクを経て2007年に社会復帰。ロボットデザイン会社フラワー・ロボティクスにて秘書兼PR、翻訳会社アラヤにてコーポレートPRを担当し、2011年電通PRコンサルティング入社、メディアやキーオピニオンリーダーとともに、PRの力を共感・共創に導くスペシャリストとして活動。電通ダイバーシティラボ所属。電通PRC LGBTQ+アライコミュニティ リーダー。
・2019年より日経XWOMANアンバサダー就任  https://woman.nikkei.com/atcltrc/blog/hosodatomomi/
・2023年よりNewsPicksプロピッカー就任 https://newspicks.com/user/269298

メディアの“目線”を知る

平林:最初に、細田さんは「メディアリレーションズ」についてどう捉えていますか。

細田:メディアリレーションズは文字通り「メディアとの関係を築くこと」で、PRプロフェッショナルにとって欠かせないことの一つです。メディアリレーションズというと、“パブリシティを獲得するためにアプローチできる関係づくり”と捉えられることは多いと思います。もちろん重要なことではありますが、それだけでなく、メディアと継続的にコミュニケーションをとり、関係を築くことで、世の中では今どんな課題や関心があるのかヒントをもらったり、共創が生まれたりもするのです。

そうした関係を築くきっかけとして、まず私が必ず実践しているのは、興味を持ってもらいたい情報の企画書やプロモート資料を、メディアごとに合った形で作り直してから相談すること。メディアが情報を自分事化でき、コンテンツになった形がイメージできないと、なかなか興味をもってもらえないからです。このメディアならどう取り上げたいかな?ということを、自分がもし編集部員だったら…と仮定し、企画書に落とし、できるだけ完成のコンテンツをイメージしてもらいやすいよう工夫します。これは、なかなか面倒ですし時間がかかります。でも、とても効果的です。

平林:メディア側の視点に立って考えるのですね。その視点を養うために、実践していることはありますか。

細田:日頃からメディアのことをよく見る/よく知ることが大切だと思います。まずはメディアを見る、読む、理解しようとする。これは、基本でありながら最も大事なことで、意外とできていないことが多いと思います。さらに、実際にメディアを作っている編集部や制作の方と話をすることもとても重要です。

どんな気持ちでメディアを作り、どんな思いでコンテンツを作っているのか、メディアを通してどのような人たちの心を動かしたいのか、目指しているところをできるだけ理解する。そうしないと思考や視点のズレが生じてしまいます。

平林:メディアが考えていることをよく知るために、細田さんはどんな風にメディアの方とコミュニケーションを取っているのですか?

細田:とにかくたくさん話をします。メディアとしてだけじゃなく個人としての最近の興味や関心事なども聞きます。でも、ただ聞き出すだけではなくて、自分の意見や考えを混ぜるようにしています。そこにまた反応が返ってきて、話は深まり関係性も深まっていきます。PRや広報担当の方が、メディアの方に恐縮してしまう気持ちもすごく分かるのですが、恐れ過ぎずに、人としてのコミュニケーションをとってみることが大切だと思っています。

平林:雑談に近い話をメディアの人とするのはハードルが高くて、ついプレスリリースだけ置いてきてしまう…というPR/広報担当者の声もよく聞きます

細田:リレーション構築って、難しく考えがちですが、恋愛における好きな人とのコミュニケーションを思い出してみてほしいです。好きな人にはあらゆる手を使って話をしたいと思うし、「今日こんなことがあった」「これどう思う?」とか聞くじゃないですか。それと同じで、大好きなメディアのために、いろいろなことを知りたい、話したい、という気持ちでコミュニケーションしてみるとよいと思っています。

共感から生まれたメディアリレーションズの例

平林:細田さんは住宅メーカー「積水ハウス」のプロモーション施策として、さまざまなメディアの編集長たちに、子育てや働き方、暮らしなどについて対談する動画に出演してもらうという企画を実施されました。編集長同士の対談というのは、なかなか簡単にできる企画ではないと思います。どのように声をかけ、実現したのですか?

画像提供:積水ハウス

積水ハウス 「住まいの未来予報」
「Lightning」「AERA」「Esquire」「ForbesJAPAN」「BRUTUS」「レタスクラブ」の雑誌編集長6人が、家づくりに影響を与える「子育て」「リモートワーク」「キッチン」のテーマについてそれぞれ2人ずつ対談。積水ハウスの設計士が対談で出たアイデアを取り入れた住空間のイラストなども特設サイトに掲載された。


細田:この企画が立ち上がったのは2022年後半。時代の変化とともにメディア業界は変革を繰り返してきましたが、コロナ禍の影響でさらに先行きが見えなくなっていた頃でした。「何か新しいアクションをしなければ」という思いが、業界内で高まっていると私は捉えていました。今回の企画はそうしたメディアの思いにもアプローチできると考えたんです。

まず、企画の意義を熱量を持ってお伝えするために、編集長に直接アプローチしました。他メディア横断の対談はこれまでになく、インパクトがあり、必ず素晴らしい企画になると思ったので、自分が持っているあらゆる手段を使って交渉しました。

もちろん各部署との調整はかなり大変でしたが、出演してくださった6人の編集長もメディアも納得のいく形で、クオリティーの高いものを一緒に創り上げることができた事例です。

平林:まさにメディアとの「共創」が実現した事例ですね。ほかにも、共創を実感した事例はありますか。

細田:オンライン上で行われたアートイベントの事例です。

新型コロナウィルスの流行により、日本ではアートに関わる催しの多くが不要不急とされ延期や中止に追い込まれました。約8割の芸術家が活動できず収入減に陥ったといいます。東京藝術大学は、芸術家たちを支援するため、活動の場を確保しつつその窮状を発信することが急務と考え、通常では敬遠されるオンライン上で作品を発表・評価する場として「東京藝大アートフェス」を実施しました。


画像提供:東京藝大アートフェス

私自身もアートの創作活動をしているので、芸術家が苦しんでいる状況に本当に胸が痛みました。日本が抱えているこうした課題を少しでも解決に導きたいと強く思い、メディアに協力を働きかけたんです。

欧米各国がアートの活動に対しアクションをとる中、日本のメディアもきっと、何らかの形で協力したり応援したりしたいという気持ちになってもらえるだろうと思ったので、そういった部分に共感してもらえるよう、接点を探りながら熱意を持ってアプローチしました。

熱意だけでなく、ここでも、どういったメディアに響くのかを想定し、メディアごとに提案資料を作成しました。必要とするであろう情報は事前に調べて入れ込んでおくことはもちろん、メディアが自分事化してくれるかどうかを重要なポイントとしました。

その結果、ForbesJAPANやWIRED日本版、ELLE、GQ Japanといったグローバルメディアが共感し協力したいと、記事として取り上げてくださり反響もありました。その時のことを思うと涙が出そうです。

まさに、メディアとの共創が実現し、社会を動かした事例だと感じています。こちらは、2021年「PRアワードグランプリ」でゴールドだけでなく、海外のアワードでもを受賞しました。

忘れがちな「自分を知ってもらうこと」の大切さ

平林:どの例も、利益や利害といったビジネスを超えて、メディアと細田さんが互いに共感し、実現した印象を受けます。

細田:編集長対談動画にしても、東京藝大アートフェスにしても、実現に大きく影響したのは「メディアのことをよく知る」だけでなく、メディア側に「私自身のバックグラウンドや思いを知ってもらったこと」だと思っています。

提案の背景にある、自分の興味関心や普段世の中に感じている問題意識、そしてその背景を知ってもらうことは、メディアの方に共感してもらうきっかけになり、互いに理解し合うことにつながります。

気持ちの部分で分かり合えることは、利害やビジネスを超えて、難しいことでも実現させてしまう力があると思うんです。なぜなら、この人のためならどうにかしたいという気持ちが働くからです。

だからこそ、ステークホルダーつまり「利害関係者」ではなく、いわば「理解関係者」を目指し普段から行動するということが大切だと思っています。
言葉の意味合いとして、メディアはそもそも取材対象に対し中立な立場にあり、ステーク(利害)を持たないため、「ステークホルダー(利害関係者)」ではないのですが、改めて意識したいポイントだと感じています。

平林:メディアに「自分を知ってもらう」というのはあまり考えたことがなかったかもしれません。

細田:メディアリレーションズが苦手な方に伝えるのは、「一番大事なのはプレスリリースじゃなく、自分のことを好きになってもらうことだよ」ということです。PRプロフェッショナルはメディアに対して「お願いして載せてもらう」という立場になる場合もあるので、極端に恐縮してしまったり、つい早口にプレスリリースの説明だけして帰ってきてしまったり、ということはよくありますよね。でも、それではなかなか関係は築けないと思うんです。

まずは人対人としての関係を築いて、初めて話を聞いてもらえることもある。極論を言えば、たくさん話をして自分を知ってもらい、プレスリリースは最後に置いてくればいいと思っています。もう一度この人に会いたいと思ってもらうことが大事なのです。

平林:あくまでも「人対人」の関係構築をベースに置くことは、対メディアだけでなくあらゆるリレーションにおいて大切なことといえそうです。でも実は、それが一番難しいことかもしれない、とも思います。

細田:そうですね。若手や初心者の人がいきなり編集長などに話をするのは難しいと思いますが、メディアにも当然、さまざまな世代の方がいて、さまざまな価値観、問題意識を持つ方がいます。コミュニケーションの取り方も、合う相手も、人によって違うので、自分のことを知ってもらう努力を続けていればきっと、メディアの中に自分と共感し合える人を見つけられると思います。私に共感してくれる相手は、他の人にとってはそうではないかもしれないし、逆もそうです。

平林:人それぞれ自分のコミュニケーションをしていくことが大事なんですね。まさにおっしゃっていた恋愛と一緒な気がします。

常にメディアのことを考え、フラットな目線で寄り添う

ここで、細田と共感し、これまでにいくつもの共創を生み出し、メディアにとっての新しい試みを実践しているForbes JAPAN 執行役員 Web編集長 谷本有香 さんに、細田の「他己評価」をしていただきながら、どんなPRプロフェッショナルなら信頼できるのか? 関係を構築したいと思えるのか?という点について、お伺いしました。

谷本Web編集長:細田さんは、提供したいネタがあるときだけ連絡してくるのではなく、常にメディアのことを考え、コミュニケーションを取り続けている印象があります。多くのPRプロフェッショナルと接してきましたが、細田さんのような人って、実はなかなかいないと感じます。

日頃のコミュニケーションが少ないPRプロフェッショナルから提案や情報提供をいただく場合、なぜこのタイミングで、うちのメディアに依頼したのか、という意図や文脈が読み取りにくいことがあります。

一方で、細田さんのように、日頃からコミュニケーションがあると、その人の問題意識や時代の捉え方、価値観を知ることができます。こちらからも話す機会があり、意識の確認をし合いながら新しいアイデアが生まれ、よい相乗効果となっていると思います。細田さんが大切にしているのはまさにリレーションなんだなと感じます。

その前提があった上でネタの提供や企画の提案があると、その意図や文脈がくみ取りやすく、記事や企画のイメージもしやすいんです。

また、フラットな立場でいてくれることも重要だと感じています。
企業/ブランドのPR担当者の方は、どうしても企業側の立場に寄ってしまうことが多いと思います。

一方で、細田さんは企業とメディアの間に立って、フラットな意見や提案をくれるので、メディアとして受け入れやすい。企業側にとって都合のよいことだけでなく、企業(PRエージェンシーを含む)、メディア、そして社会の三方を俯瞰した話をできることが、信頼につながっています。

私だけでなく、メディアの人たちの多くが、会社に所属する細田さんとしてではなく、個人としての細田さんを信頼して仕事をしていると思いますが、そういったフラットな姿勢が個人としての信頼につながっているのだと思います。

「代わりが利かない存在」になるために重要な「感性」の話

平林:谷本web編集長もおっしゃっていましたが、会社員としての細田さんでなく、細田さん個人をメディアが信頼している、つまり、メディアにとって「代わりの利かない存在」になることは、すごく理想的です。

細田:「共感」は比較的広い範囲、多くの人に対してできると思います。でも、ときどきその上に行くときがあるんですね。感じている気持ちや目指す方向性、パワーなどがバッチリ合う人がいる。これが「感性が合う」ことだと考えていて、感性が合うと、お互いに代わりの効かないパートナーになっていけると思っています。

なかなか出会えるものではありませんが、そういう人と出会うと、「共創」のスイッチがカチッと入ってアイデアがどんどん湧き出できて、お互いに「これやりたい」「あれやりたい」とわくわくして、企画がどんどん進みます。私の場合は、社会課題の解決に向かうことが多いです。

平林:「感性の合う人」との仕事は、素晴らしい仕事につながりそうですね。どうしたらそういった人を見つけられる、もしくは、メディアの方から「感性が合う」と思ってもらえるのでしょうか。

細田:まず自分自身を深く知っておくことがとても大切です。PRプロフェッショナルである前に一人の人間として、どんなことを目指したいか、どんな世の中になってほしいか、そのためにどんなアクションをしたいのか、ということを、人生やキャリアのステージごとに深く考えてほしいと思います。考えを深める中で見いだした自らの感性を大切にし、相手を見極めつつ自己開示していくことで、メディアやKOLの誰かと響き合う機会がきっとあると思います。

私はそういった相手と出会うと、一緒に世の中をよくするために、アクションせずにはいられないと思ってわくわくします。つまり、共創する“必要がある”といった“need”ではなく、もっと主体的な、共創“したくてたまらない”といった“want”の感情です。

また、世の中からいろいろな情報を受信することも重要です。それも、PRやメディアに関するものに偏るのではなく、自分が興味を持っていない、新しいジャンルなど、多方面にアンテナを張ってみるんです。そのインプットが自分の感性にも影響しますし、思わぬところで誰かに響くときもあります。

平林:PRプロフェッショナルはあくまで材料を持っていく役割で、それを料理する、つまり企画にするのはメディア側だと考え、共創という感覚をなかなか持てない人も多いかもしれません。

細田:メディアを取り巻く環境も日々変化しています。その中で生じるメディアの関心事に対して、自分が編集部員だったら…と自分事化する感覚をPRプロフェッショナルにも持ってほしいと思います。

そのためにまず、メディアのことをよく見て、よく知り、好きになる、さらには自分のことも知ってもらう。この人に話しを聞きたいとお互いに思えるような存在を目指し、人対人としての関係を長年かけて徐々に築いていく。
これって、地道なことで時間がかかるけど、みんなができることだと思う
んですよ。続けていくと共感に出会い、さらには感性の合う人に巡り会えると思います。

時間をかけて、自分らしいコミュニケーションの仕方で、メディアとの「理解関係」を築いていくことが大切だと思います。


「PRX Studio Q」は、PRエージェンシーのプランニング専門チームです。コミュニケーション設計やプランニング、制作など、もし興味をお持ちでしたら、お気軽にご相談ください。

prx-q@group.dentsuprc.co.jp


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