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その表現、ステレオタイプになっていない?「感情リスク」を事前チェックしよう

企業やブランドのレピュテーション(評判)の毀損につながる「炎上」。商品・サービスの過失、役職員の「不適切な発言」など炎上につながるリスクは数多くありますが、中でも今、広報担当者が神経をとがらせているのは、広告などを通じて行う情報発信ではないでしょうか? 

例えば新商品のキャンペーンで、テキストや写真、文字の色まで細部にわたってこだわり、時間もお金もかけて世に出したのに「炎上」で取り下げに――。関係者には後悔ばかりが残る結果です。こうした炎上の背景に「ステレオタイプ」(固定観念)な考え方が影響しているケースが増えています。 世の中の人々の考え方や価値観が大きく変化している中で、企業や組織もステレオタイプな表現を見直す必要に迫られています。 

こんにちは、PRX-Qコンサルタントの小野です。私はリスクマネジメント、パブリックアフェアーズに関するコミュニケーション施策を専門にコンサルティングを行っています。

今回は、「この表現は大丈夫かな、もしかしてステレオタイプになってないかな」と思った際に、議論の整理に役立つ「感情リスクチェックシート」をご紹介します。

「ステレオタイプな表現」って? 

ステレオタイプとは、「多くの人の中に浸透している固定観念や思い込み」のことをいいます。アメリカのジャーナリスト・政治評論家であるウォルター・リップマンが著書『世論』(1922)の中で提唱した概念で、例えば性別や年齢、国籍、宗教など、ある特定の属性を有する人に対して持たれる単純化されたイメージです。 

「ステレオタイプな表現」例
▼ジェンダーバイアス
・「男性は外で働き、女性は家を守る」など役割分担の押し付け 
・「イクメン」や「リケジョ」など反対の性別には付けない表現 
・「男らしさ」「女らしさ」の強要 

▼エイジズム
・「若者はトレンド意識が高い」とか「中高年は頑固」といった考え方 

▼血液型
・「A型は几帳面」「B型はマイペース」といった考え方 

 従来のステレオタイプや偏見をそのまま描いてしまったことで「炎上」を招く広告やコミュニケーション事例は後を絶ちません。国際NGO「プラン・インターナショナル」が2019年に行った調査によると、15~24歳の約41%が「今まで目にした広告で不快感や違和感を抱いたことがある」と回答。その理由として最も多かったのが、「ジェンダーの固定観念の助長」でした。対して、「よい意味で印象に残っているものがある」と回答したのは約30%にとどまり、企業が若い世代の価値観を反映し切れていない現状が浮き彫りになっています。 

注意したいのは、ジェンダーバイアスやステレオタイプを見直さずに情報発信してしまうと、その意図にかかわらず、差別を肯定していると捉えられかねない点です。例えば、家事や育児で苦労する母親に寄り添うような「共感型」のメッセージを発した場合、それが女性たちを応援したい意図だったとしても、「家庭内でジェンダーギャップが存在する現状を肯定している」と全く真逆の反応を引き起こしてしまうケースがあります。ソーシャルメディアで情報が次々と拡散される時代、一度炎上に発展してしまうと、企業やブランドのレピュテーションは著しく毀損されてしまいます。 

時代は「アンステレオタイプ」へ 

時代の変化に合わせようと、このステレオタイプの表現を見直そうという動きが各地で出ています。例えば、UN Women(国連女性機関)が主導して2017年に設立したUnstereotype Alliance(アンステレオタイプアライアンス)。メディアと広告によってジェンダー平等を推進し有害なステレオタイプを撤廃するための世界的な取り組みで、日本支部も2020年5月に設立されました。 

英国では、広告基準協議会(ASA)が性別に基づく「有害なステレオタイプ」を使った広告を2019年に禁止しました。以降、同国内の広告は、男性がくつろぐ間に女性が掃除していたり、男性がおむつ替えに失敗したりするなどのシナリオは使えなくなったとのことです。

日本国内では、企業独自で取り組むケースが見られます。複数の化粧品メーカーが「美白」や「ノーマル」という表現の使用をやめたり、大手ポータルサイトが身体的特徴をコンプレックスとして露骨に強調する広告出稿の審査を厳しくしたりするなど、それぞれの自主的な対応に注目が集まっています。 

事前に「感情リスク」のチェックを

では、炎上しないためにはどうしたらいいのでしょうか。ステレオタイプは「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)」とも呼ばれ、誰もが無自覚なままに持っているもので、自ら気付きにくいのが特徴です。だからこそ、できるだけ多くの視点から、常にチェックを入れることが大切です。年齢、性別、職業など自分とは違う属性の人と意見交換し、多様化する価値観に触れ続けることも有効でしょう。 

PRX-Qでは、表現がステレオタイプになっていないか、誰かを不快にさせたり傷つけたりしないか、事前にチェックするために「感情リスクチェックシート」というものを活用しています。

企業/ブランドが発信するコンテンツに関して、どういう人たちが目にする可能性があるかを書き出し、さらにその人たちがどんな感情を抱くリスクがあるのか、できるだけ多く挙げて整理するためのシートです。いろいろな立場を想像したりヒアリングしたりしながら感情を書き込んでいくことで、自分とは違う第三者の立場に立って考える視点が養われますし、ネガティブな反応が起きた際にブランドとしてはこういう説明をしよう、という目線合わせにもなります。

感情リスク チェックシート【記入例】

例えば、女性活躍を企業として推進する取り組みを始める場合に、女性以外の社員はどう思うのか、就労していない女性はどう感じるのか、就活生にはどう映るのかなど、事前に考えてみることで、自社のメッセージの意図をあらためて確認することもできますし、PRやプロジェクトの目的もより明確化することができます。


感情リスクチェックシートのステップ

具体的なステップは以下の通りです。

ステップ①:情報の受け手やステークホルダー

▶取り組み内容から、情報の受け手やステークホルダー(直接的間接的含む)を思いつく限り挙げていく。

このときに性別、年代、職種などさまざまな立場の人からヒアリングなどができるとより幅広い視点で取り組むことができます。「自分だったらどう思うか」も大切ですが、「こういう立場の人だったらどう思うか」をいろいろな視点を交えて想像していくことが重要です。

ステップ②:感情リスク

▶情報の受け手やステークホルダーが取り組み内容にどういう感情を持つのかを考えていく。その中でも特に企業に対するネガティブな感情を持ちそうなものを感情リスクに記載する。

もちろん、そのグループに当たる人たち全員が同じように考えることはあり得ません。でも、その中でも特に不快に思う人、傷つく人がいるとしたらどういう感情になるのだろうか?を前提に想定します。

ステップ③:企業/ブランドの対応・スタンス

▶その感情に対して、企業として、ブランドとしてどういう姿勢で寄り添えるのか、理解を求められるのかを確認していく。

実際には、②の段階で「この企画は炎上する可能性が高い」と議論になる場合もあります。それでも、企画の意図や企業の姿勢などを一つ一つ確認していくことで、その懸念を減らしていくこともできますし、万が一批判が起きた場合には丁寧な説明にもつながります。


広告での表現、人物の描き方や配役、製品やサービスのターゲット想定などが、多様性の包摂や新しい価値観を反映したものになっているかという視点が企業コミュニケーションには欠かせません。
 
企業のことをより理解してもらうための、よいメッセージをなるべく多くの人に受け入れてもらうためには、事前の「複数回×複眼的視点」によるネガティブチェックが重要です。みんなで議論しながら「この表現が特定の誰かを傷つけないか」「ステレオタイプになっていないか」を確認するシートとして、ぜひご活用ください。


と、ここまで書いてきましたが、私自身も「ステレオタイプは一切持っていない」とは言い切れないのも正直なところです。

自分の中に無意識に固定化されてしまっている価値観が、知らない間に誰かを傷つけているかもしれない、不快に思わせているかもしれない……。そういう不安を常に忘れずに、いろいろな立場や考え方を知り、受け入れることを大事にしていきたいです。