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「パラスポーツって何ですか…?」入社3年目、初めて漬かった社会課題
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「パラスポーツって何ですか…?」入社3年目、初めて漬かった社会課題

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今回は、世界最大の広告・PRクリエイティブの祭典「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」の、30歳以下を対象とした企画コンペ、通称「ヤングカンヌ」の国内PR部門で、最高賞となるGOLDを受賞した森光菜子さんのルーツに迫ります。戦いの一部始終は、こちらのnoteをぜひチェックしてください!
 

こんにちは、森光です。私は、現在PRX Studio Qのメンバーとしてサステナビリティ領域を中心としたプランニングに携わっているのですが、昨年まで【パラスポーツ推進ネットワーク】(通称パラネット)という組織に出向していました。

ヤングカンヌとパラネットは、『社会課題的に取り組む』という意味である種通じる部分があるのですが、今日は、そんな私が見つけた「パラスポーツを通して見えた、PRにできることの広さ」をお届けします。

※本記事に登場する所属団体・競技団体は、あくまで私が在籍していた2019年~2021年当時に関しての描写となります。現在はさまざまな変化・進化が起こっているかと思いますので、その点ご了承ください。

なぜ“パラ素人”の私が…? 突然やってきた出向

入社後、メディアの方に向けて情報提供やアプローチをする部署に配属されて数年がたとうという頃、突然「パラネット」へ出向が決まりました。

(一社)パラスポーツ推進ネットワーク、通称「パラネット」。
パラスポーツ競技団体の自立自走に向け、大会運営と広報ノウハウを提供することが主な目的の、当時2ヶ月前にできたばかりの団体でした。そこで私は2019年1月〜2021年の12月まで勤務し、右も左も分からないパラスポーツの価値向上に貢献することがミッションでした。

世の中は「東京2020オリンピック・パラリンピック(以下、東京2020)」に向けて、盛り上がっている時期でしたが、私自身パラスポーツはおろかスポーツにも当時は興味がなく、「なんで私が・・・?」とショックを受けたところから物語は始まります。

パラスポーツ界に起きた混乱、その名はチャンス。

そんな“パラ素人”の私が、パラスポーツの現場に足を踏み入れて、ぶつかった壁、それは「PRにまで手が回らない状況。PRは後回しにせざるを得ない環境」でした。

当時のパラスポーツ競技団体では「本当にパラスポーツを必要としている人にだけ情報を届ける広報対応でよい」「取材時間より練習時間を割きたい…」といった声が強く、チーム運営体制もギリギリの人員で、PR(双方向の良好な関係づくり)にはなかなか手が回らない状態でした。しかし、パラスポーツを取材するメディア側に大きな変化が起きました。

障がい者のスポーツ活動の管轄が厚生労働省から文部科学省に移り、2015年にスポーツ庁が新設され、パラスポーツを福祉だけではなくスポーツとして捉える流れが誕生したのです。それに伴い、これまでは社会福祉の観点で「社会部」記者がメインで取材していたパラスポーツ界に、スポーツを取材する「運動部」記者が入ってきたほか、新しいメディアが一気に増えました。いってみれば、ちょっとした“取材バブル状態”となったのです。

▲車いす選手の移動が困難なほど、大会にメディアが殺到。


一方、チームや選手側は体制や人員が変わらず、取材需要があふれ、取材現場には混乱が起きました。

「取材をできる限り受けたいけど、対応の仕方が分からない」
「いや、広報対応より競技力向上に選手の時間を割くべきだ」
「いやいや、それだと認知が広まらず普及がおろそかになり、競技人口が減り、結局競技力が向上しないのでは…」

私は、その混乱を現場で競技団体の方と汗を流しながら共に体感していました。でもこの「混乱の実体験」こそが、「PRの領域の広さ」に気付く大切なきっかけとなったのです。そこには競技を持続・発展させるために必要な三つの要素が存在していました。

例)パラスポーツを取り巻く価値向上サイクル

このように、パラスポーツ界での「PR(Public Relations)」とは【広報力】だけではなく、【運営力】【競技力】を含むこのサイクルをぐるぐる循環させることだと気が付きました。

パラスポーツが社会と手をつなぐには、意識すべきはメディアだけではなく、スポンサー企業も、観客も、会場を貸してくれる大学も、大会ボランティアも、もちろん選手も。全てのステークホルダーに意識を向ける必要があります。

「PRがパラスポーツにできることって、めちゃくちゃ広い…!」

競技団体の皆さんと「目的達成のために、なぜ今、競技力向上だけでなく、広報に向き合い、運営力を整える必要があるのか」を、文字通り膝を突き合わせて丁寧に話し合っていきました。そのために、私たちが取り組んだことは、下記のように多岐にわたります。

競技団体パーパスの見直し/企業・自治体・大学等と連携した大会盛り上げ施策提案/スポンサー獲得メニュー立案/選手向けのマーケティング講義/大会ボランティア車いす体験企画/写真展企画/大会取材対応力向上/選手メディアトレーニング実施/リリース作成ノウハウ提供/ソーシャルメディアクリエイティブ開発 など

▲小学校での義足体験。実際に義足を使用するパラ・パワーリフティング選手にサポートしてもらう。
▲パラカヌー日本代表合宿を訪れてのマーケティング講義
▲越智貴雄氏 パラスポーツ写真展「てんねんD&I展」アートディレクション


多様な取り組みですが、全て【運営力】【広報力】【競技力】の向上サイクルを回すという目的に向かっています。PRは、一点突破型ではなく「全方位型」だということを実感しました。

当初は人員・経験不足から後回しになっていた“Public Relations”でしたが、少しずつ理解いただくことができ、自分たちでアクションを創り出していく競技団体の方が増えていったように思います。


メディアの「かゆいところ」にPR課題あり

一方その頃、メディア側も競技団体同様に戸惑っていました。例えばこんなエピソードがあります。

知的障がい選手には常にご家族が付いていて、取材もご家族が対応します。「ご家族の言葉、選手の話として書いてよいの?」といった疑問が出てきますが、答えは「OK」。ご家族の言葉は選手の思いとして書いてください、というケースがありました。健常者スポーツの現場ではあまり考えられないことですが、このようなイレギュラーで臨機応変な対応が、個人に応じて往々にして起こります。

ただこのような対応は、日頃より競技団体や選手とコミュニケーションを密に取っていないと瞬時に分かることではありません。しかも、パラスポーツ選手の障がい特性により、その対応は個々のレベルで異なってきます。

さらに東京2020の選考過程は障がいによるクラス分けにより非常に分かりにくく、取材するのにも一苦労でした。さらに困ったことに、競技団体の皆さまは、非常に限られた人員で多くの業務を受け持っていることが多く、とにかく忙しい。「(取材対応者が)全然捕まらなくて…」という雑談をよく現場でメディアの皆さまから伺っていました。

そこで電通PRコンサルティングのメディアリレーションナレッジを生かし構築したのが、以下の二つです。


①パラスポーツ・メディアフォーラム
メディアの方が聞きたいことをぎゅっと伝える&質問できる“顔の見える”座談会を開催。2015年〜2021年までの計32回を開催、私は2019年からジョインしたのですが、最終的には東京2020パラリンピックに出場する全競技の担当者や選手に登壇していただくことができました(長い道のりでした)

▲実際に選手にも競技説明を行ってもらう。


②パラスポーツ・データベース
メディアの方が聞きたいことをぎゅっとまとめた「情報のプラットフォーム」をオンライン上に構築。競技団体が基本的な情報を回答する手間とストレスを解消させました。

これらにより、競技団体ーメディアー企業をつなぐ記者クラブのようなコミュニティーへと進化。一つのよりどころが生まれたことは大きな資産となったと信じています。

ようやく霧が晴れてきた。取り組みを通じて変わっていった競技団体の視点、私の視点。

ある日、競技団体の広報担当者からお礼のメールを頂いたのですが、その一文がとてもうれしかったのです。

「最初はどう対応していいか分からなかったメディアの皆さまが、競技を広めていく上で、力強い味方だと思えるようになりました。ありがとうございました」

当初パラスポーツ界にとって何が正解か分からなかった私にとって、競技団体の方がメディアという一つのステークホルダーと手をつなぐことに意義を感じていただけたことに、PRの価値を大きく実感した出来事でした(今でもそのメールは私の"宝物メールBOX"に保存されています)。

全く興味の無かったパラスポーツに、自分なりのPRの存在意義を見いだせた理由の一つとなる「ゆるぎない実体験」であったように思います。

さらに、とあるパラスポーツの大会に行った際の話です。

ちょうどシーンと静まり返っている試合中、「あの選手、手がないよ~!」という観戦中の子どもの声が響き渡ったのです。大人の「!!」という少し焦った空気感を即座に感じました。

でも、よく考えてみたら別にそれは触れてはいけないことではないかもしれないのです。大人がつくり出してしまっている「こうあるべき」「こういうものだ」という空気に、新しいそよ風が吹いた感覚。現に、そのお子さんの表情はとっても無邪気で、「あの選手かっこいいよ~!」と言っているような声色でした。


他にも書き切れないような貴重な実体験がたくさんあります。メディアも、会場で目を輝かせていた子どもも、そして私自身も、多くの人がパラスポーツに心動かされていくのを間近で見てきたからこそ、PRにできることがもっとたくさんあるのではと感じるようになりました。

▲第20回全日本パラ・パワーリフティング選手権大会。子どもたちが選手の名前を呼んで応援。


「机上の空論」「きれい事」で人は動かせない。

現在、私は社会課題と企業をつなぐサステナビリティ・ブランディングの部署に所属しています。日々出現する社会課題は、パラスポーツと同様“自分ゴト化しにくい”話題がほとんどかと思います。

だからこそ、メディアに伝えるだけではなくさまざまなステークホルダーと手をつなぐための全方位的な関係づくり、つまりはPublic Relationsが必要である。社会課題こそPRの力を最大限に生かすことのできる場だと思ってわくわくしています。

そして忘れてはいけないと思うことは、「ゆるぎのない実体験」を積極的に自分から体験しに行くこと、触れてみること、漬かってみること、共に汗をかいてみること

そこからやっと、この課題の本質は何なのか、どんなPRが効くか、が見えてくる気がしています。

最後に

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。もしかすると、筆者が中心となりパラスポーツのPRを創り上げて・・・と感じられた方もいらっしゃるかもしれませんが、それは全く違います。東京2020という契機に、パラスポーツをもっと知ってほしい、知りたい、盛り上げたい、支えたい、という選手・競技団体・メディア・スポンサー企業・ボランティア・関係団体等あらゆるステークホルダーの皆さまの熱い思いがまずはあったということをここに残させてください。私はあくまでその媒介者の一人に過ぎません。全ての関係者の皆さまにこの場を借りて、感謝申し上げます。

願わくば東京2020で回り始めたパラスポーツ振興やD&Iコミュニケーションがもっと身近なものになってほしい。私も微力ですがPRのお仕事を通じて、大変お世話になったパラスポーツに恩返しができればと考えています。


…皆さんも、パラスポーツの大会や動画、ソーシャルメディアをぜひのぞいてみてください!とってもスーパーで、ノーマルです!

▲カンヌライオンズ2022 Film Craft部門でGOLDを獲得した、CHANNEL 4「SUPER. HUMAN.」


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その熱量を、世界を動かす力に変える。電通PRコンサルティングのプランニング専門部署から生まれたチーム「PRX Studio Q」の公式noteです。私たちが大事にしていることや、独自のメソッドなどについて発信します。公式HPはhttps://prx-studio-q.com/