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治部れんげさんと考える PRパーソンのジェンダーコミュニケーション

PRX Studio Q

 2021年に世界経済フォーラムが公表したジェンダーギャップ指数で、156カ国中120位、G7で最下位と低迷している日本。PR領域でもジェンダーギャップを解決すべく、コミュニケーションに取り組む企業が増加している一方、その表現が批判を招き、「炎上」へと発展してしまう事態が起きています。企業がいったん炎上してしまうと、ブランド毀損を招くのはもちろんのこと、組織のリソースを割かなければならなかったり、従業員のモチベーション低下につながったりするなどのリスクが生じます。

 リスクを事前に回避する上で、ジェンダー問題への深い理解が、これからのPRパーソンに不可欠な新教養となっていくと考えられることから、今回はジャーナリストの治部れんげさんをお招きし、コミュニケーションの際に気を付けたい点や表現におけるリスクマネジメントについて考えました。

治部れんげさん
1974年生まれ。経済誌記者を経て、2014年よりフリージャーナリストとして、ダイバーシティ経営や女性のエンパワーメントについて執筆。2021年より、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。著書に『炎上しない企業発信:ジェンダーはビジネスの新教養である』(日本経済新聞出版)など。

炎上しやすい「ジェンダー」、指摘し合える組織風土を

PRX Studio Qチーム(以下、Qチーム):そもそも、なぜこんなにジェンダー炎上が多発しているのでしょうか。原因はどこにあるのか教えてください。

 治部れんげさん(以下、治部):炎上問題は、10年くらい前までは専門媒体など一部の限られた人たちの関心事でしたが、ここ最近は一般常識として急速に広がり、マスメディアでも頻繁に取り上げられるようになりました。その中でもジェンダー問題は、人々が感情的になりやすい、つまり炎上しやすいテーマなんですね。企業としてコミュニケーションを考える上で、企画担当者が、男性として、女性として、あるいは人間としてどう生きるかは個人の自由ですが、自分の価値観や体験を一般化して企画会議にそのまま持ち込むと、社会の変化から「ずれた表現」として受け取られかねないので注意が必要です。

 この「ずれ」の原因は、自身の「ジェンダーバイアス」にあります。しかし、これは誰もが持っている上に、「アンコンシャス(無意識)バイアス」とも呼ばれ、自覚的になるのは至難の業です。私自身このような仕事をしていても、娘や息子から「お母さん、それ決めつけだよ」と言われ、はっとすることが今でもあるくらいです。

 だから、他人から指摘してもらえる環境がとっても大事なんですね。自分が若手だから、相手が上司やクライアントだから、という理由で違和感を口にできない組織は、結果的にバイアスのかかった「ずれた」表現を放置し、炎上を招くリスクを生むので、お互いに指摘できる風通しのよさがリスクマネジメントの第一歩になります。

 あなたのチームのジェンダー感度は?

Qチーム:弊社でも先日、ジェンダーに関する社内意識調査を実施しましたが、いろいろな意見や課題が見えてきて、社内コミュニケーションの重要性を実感しました。

治部:社内アンケートなどを実施すると、今まで見えていなかった潜在的な課題がはっきりするので、組織の「ジェンダー感度」を高めるのには有効ですよね。実はこの感度というのは、企業によってかなりバラつきがあります。感度を高める二大ファクターは、顧客の声や投資家からのプレッシャーなどの「外圧の強さ」と、ジェンダーに限らずあらゆる人々の権利に配慮する「人権意識」

 私が企業研修やコンサルティングを通して感じた個人的な感覚でいうと、広告代理店は比較的炎上リスクが高い組織だと思います。理由は、第1に「面白さ・新規性」を優先しがちであること。第2に、名の通ったクリエーターなど発言力がある人の意見で会議や物事が進みがちであることなどです。反対に、投資家が人権意識の高いグローバル企業や、もともと営利目的ではなく、赤ちゃんからお年寄りまで全世代をサポートすることが仕事の自治体などは炎上リスクが低いといえるでしょう。皆さんの組織やチーム、あるいはクライアントは、どれくらいリスクを抱えているでしょうか。いま一度考えて、感度を上げるために何が必要か、検討してみるのもいいかもしれません。

発信内容以外が原因で炎上することも

Qチーム:最近は企業の発信内容だけではなく、組織内のジェンダーバランスなども生活者から厳しくチェックされるようになってきましたね。

治部:そうですね、対外発信でどんなにいいことを言っていても、ふたを開けたら「男性役員しかいないじゃないか」という批判はたびたび起こっています。一般生活者だけではなく、機関投資家も長期的な視点で投資先企業を見ているので、ダイバーシティ推進に厳しい目を向けています。グローバル企業が多様性の醸成に必死なのはこのためなんですね。

 女性役員を増やすための世界的キャンペーンとして、「30%Club」というものがあります。企業の重要意思決定機関に占める女性の割合向上を目的として、2010年に英国で創設されました。日本でも展開されており、女性リーダーの育成に熱心な企業のトップがメンバーになっています。日本全体を見ると、女性役員の割合は増加していますが、企業ごとに大きな差があり、30%Club Japanの加盟企業では約21%と積極的に女性役員の登用を進めていますが、全上場企業となると約6%にとどまるのが現状です。(数値は2020年7月時点)

リテラシー向上の鍵は、違和感の言語化

Qチーム:私たちは、自分たちが関わっていない炎上事案でも、何が問題だったのかチームで話し合うようにしているのですが、どんな点に着目して議論するといいでしょうか。

治部:他社の炎上事案があったときは、まず皆さんが一市民としてどう思うかを言語化することがすごく大事です。なにが不適切だったのか、どんな人を傷つける表現だったのか、きちんと言葉にして説明できると、問題を整理することができるからです。それを繰り返していると、皆さんがお仕事で関わる際に、クライアントの目的や表現の的確さを慎重に評価するリテラシーが養われていくと思います。

 「どうしたら炎上を防げますか」というのは、とてもよく尋ねられる質問ですが、答えはやはり「人材の多様性を推進すること」です。ジェンダーリテラシーは年齢や性別に関係がありません。年齢や性差ではなく、経験や価値観などそれぞれの内面の多様性を確保して、お互いに意見を言いやすい環境にするということが組織強化につながります。結局のところ、問われているのは常に「自分」です。家庭でどんな振る舞いをしているのか、違和感を覚えたときにどんな行動をとっているか、後継者を決定するときにどのような人を選ぶのかなど、「自分自身がどう変わっていくといいのか」という視点で考えることが、結果的にチームやクライアントの課題解決にもつながっていくのではないでしょうか。

Qチーム:私たちQチームでも、炎上リスクをマネジメントするために「ステークホルダー感情リスクチェックシート」というものを作成しています。ステークホルダーを洗い出して、その人たちがコミュニケーションに対してどんな気持ちを抱くか、想定し得る「感情リスク」をそれぞれ書き出すことで、ブランドのスタンスや、万が一批判を受けた際の対応について、事前に協議することができます。

治部:とても有効なシートだと思います。多様な視点で事前にチェックすることが大切ですね。

Qチーム:多様なステークホルダーのネガティブなリアクションも想像した上で、それでも「ブランドが伝えたいこと」は何か、伝えるためにはどのような説明が必要か、クライアントとしっかりコンセンサスをとっておくことが、ジェンダー領域のPRにおいては欠かせないと思います。治部さん、本日はありがとうございました。

*本記事は、2021年6月に実施した社内勉強会の内容を要約・再構成したものです。

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