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“思いつき”のアイデアから脱却する「なるほど!イシュー」の見つけ方

日々さまざまなPR事例を見聞きしていると、「その手があったか…!」と思わず膝を打つような、「世の中の困り事を解決するアイデア」や、これまでの意識や行動ががらりと変わってしまうような、「多くの人にシェアされ、社会に広がる『新常識』を生み出すアイデア」に出合うことがあります。

こうしたアイデアは、「単なる思い付き」ではなかなかたどりつけません

私たちも、アイデアを出し続けることに日々苦悩しています。一方で、世界中の事例を見ていく中で、優れたアイデアがどうやって生まれているのか、その構造を分解・分析していくと、ある共通点が見えてきます。

それは、“よいアイデア”とは、“「なるほど!」なイシュー(問題)”から生まれているということ。

「なるほど!」なイシューとは、まだ世の中に大きく表出していない“発見感”がありながらも、生活者が抱える問題として、「言われてみれば確かに!なるほど!」と“共感”できるイシューだと、私たちは考えています。

そうしたイシューが設定された上で、それを解決するためのアイデアになっているかどうか、ということがポイントです。

今回は、特に広報/PRの仕事を最近始めた人や、広報/PRの仕事をこれから志す人に向けて、“よいアイデア”をつくる上で最初の一歩にあたる、“よいイシュー”を設定するコツについてご紹介します。



問題→課題→アイデアの3ステップ

まず、優れた事例の多くは、下図のような構造に整理できます。

世の中からなくしたい、人々の困り事など=イシュー(問題)が起点となり、次に、そのイシューを改善・解消するために取り組むべき課題があります。最後に、課題を解決するために具体的に何ができるか、その解決策として「アイデア」があるのです。

この構造を意識することで、単なる思い付きではなく、誰の、どんなイシューを解決するためのものなのか、ということを念頭に置きながらアイデアを考えることができます。

必ずしもイシューから考えなければならない、ということではなく、そのアイデアが何を解決するものなのか?が明確になっていることが重要です。

【事例】ハウス食品「レシピ語超解説辞典」

例えば、ハウス食品株式会社は新型コロナウイルス感染拡大中の2021年、料理のレシピに載っている言葉を解説する「レシピ語超解説辞典」を作り、多くの生活者から共感を得ました。

このアイデアを分解してみると、下図のようになります。


同社は、コロナ禍で料理が苦手な人も自炊する機会が増えている状況に着目。「料理における負担を少しでも減らす」というミッションを掲げました。

ミッションを達成するためのアイデアを考えるため、料理初心者や苦手な人が抱える問題を、下記のように「なぜ?」を深掘りし、仮説を立てていきました。

・料理にはレシピがあるのに、料理が苦手な人がいる

↓ なぜ?

・苦手な人や初心者は、レシピ通りに作ることが難しい

↓ なぜ?

【仮説】
・レシピの説明は、基本的な手順がわかっている前提で書かれている問題
・レシピに記載された料理用語の意味が分からない問題


この仮説を基に、ソーシャルメディアで声を拾っていくと、

「飴色ってどんな色?キツネ色とはどう違うの?」
・「しんなりするまでってどういう状態?」
・「ひとつまみってどのぐらい?」

といったレシピの言い回しに対する疑問の声が実際に存在し、「レシピには初心者には分かりにくい独特の言い回しや表現がある問題」があることが分かりました。

まさに、まだ世の中に大きく表出していないけれど、「言われてみれば確かに!なるほど!」と共感し得る「なるほど!イシュー」です。

そして、このイシューを解決するためにやらなければならないことを考え、「レシピを初心者でも解読できるようにする」という課題を設定をしました。

こうして生まれたアイデアが、「レシピ語超解説辞典」です。

イシューと、それを踏まえた課題がしっかりと設定できていれば、その時点でアイデアはほぼ出来上がっているといえます。イシューを見つける力は、アイデアを生み出すための武器になるのです。

「なるほど!イシュー」設定のための3カ条

では、こうしたイシューを見つけるためには、どうすればいいのでしょうか。重視したいポイントは①新奇性 ②共感性③相応性 の3つです。


①新奇性

まだメディアで大きく取り上げられていない、世の中であまり認知されていないこと。または、一部の界隈(かいわい)では関心が高いが、一般的には珍しいもの。メディアに「“New”s」と思ってもらい、広く社会に届けるためには欠かせない要素です。

②共感性

意識していなかったことでも、言われてみれば「確かに!」「そうそう!それが言いたかった!それ思ってた!」など、「解決する理由がある」と納得できること。共感性が高い話題は、多くの人が自分ゴト化しやすく、シェアしたくなります。UGC(ユーザーが生み出すコンテンツ)にもつながりやすく、拡散されやすくなることは、重要なポイントです。

③相応性

設定したイシュー自体が、企業/ブランドに相応しいサイズ感かどうか、という観点。例えば「海洋汚染」「いじめ問題」「貧困」といった抽象度が比較的高いテーマにすると、企業/ブランドによっては解決することが難しく、イシューにマッチしたアイデアを出すことが困難になります。逆に、イシュー設定が小さ過ぎても、社会的なインパクトに欠けてしまい、情報が広く伝わりにくくなります。

3カ条を満たすイシュー発掘の糸口の一つが、ソーシャルメディア上のn=1の声です。

生活者が抱えるイシューは本来、心の中にあって見えないため、アンケート調査の結果や報道分析、有識者へのヒアリング、そして自分自身や周囲の気付きや疑問などから仮説を立てることが多かったと思います。

しかし、誰でも気軽に本音を吐露できるようになった今、ソーシャルメディアは生活者のイシューの兆しとなる声があふれている、情報の宝庫といえます。

こうしたソーシャルメディアにあるn=1の声から、世の中の関心・問題を見つける方法の一つとして、私たちは「ソーシャルハンティング」を実践しています。

「ソーシャルハンティング」について、詳しくはこちら。

よいアイデアは、よいイシューから

「イシュー設定→課題設定→アイデア」という構造を理解することは、PRプランニングの基本であり、よいアイデアを生み出すための初めの一歩といえます。

自分が「良い!」と思ったプランニングについて、この構造を活用して事例研究を行うと、そのアイデアがなぜ素晴らしいと感じたのか、深い考察を得ることにも役立つと思います。また、事例やアイデアを人に説明することが苦手という人も、この構造を基に説明をすると伝わりやすくなるはずです。

思いつきでなく、世の中のイシューを可視化することで生まれたアイデアは、世の中の“新常識”になったり、多くの生活者に気付きを与え、行動に変化を起こすきっかけとなり得ます。まさにPRの本質である、「世の中とのよい関係づくり」につながります。


今回は、よいアイデアを生むための「なるほど!イシュー」の見つけ方をご紹介しました。

PRX Studio Qでは、ソーシャルメディアを活用した企画など、企業やブランドのコミュニケーション設計を行っています。もし興味がございましたら、お気軽にご相談ください。

prx-q@group.dentsuprc.co.jp


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