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テレビのメディアリレーションズは“料理人と卸の関係”?|PRの先輩に聞いてみました

PRの仕事についてその分野のプロフェッショナルにインタビューをする「PRの先輩に聞いてみた」シリーズ。第1弾では、雑誌を中心としたメディアリレーションズを得意とする電通PRコンサルティングの細田に話を聞きました。

こんにちは、PRコンサルタントの齊藤です。

第2弾となる今回は、テレビを軸にPRコンサルタントとして15年以上の経験を持つ、電通PRコンサルティングの今井慎之助に、テレビとのメディアリレーションズの極意や、メディア側から求められる存在になるためのコミュニケーション術などについて聞きました。

今井 慎之助

■プロフィール
今井 慎之助 (いまい しんのすけ)
2社のPR会社を経て、2014年より電通パブリックリレーションズ(現・電通PRコンサルティング)に入社。テレビとのメディアリレーションズ業務歴は1社目より累計15年以上。得意技は、0→1発想の表現クリエイティブにテレビ視点を加えること。「取材したいコンテンツ/ニュースにしやすい文脈」に仕上げる、1→10の情報クリエイティブで、メディアコンタクトをしなくても取材が来る情報設計を理想にしている。
テレビ局経済部との日夜を問わない情報交換を通じて得た“経済部視点”や、国際的スポーツイベントにまつわる苦難を一緒に乗り越えたスポーツ局との絆、健康面のメリットをウリにした機能性食材のメディアコンタクトも得意領域。

幅広い1や2の知識があれば、10の知識を持つプロともコミュニケーションが取れる

齊藤:今井さんは“テレビPR”一筋ですよね。

今井:そのつもりはなかったですが、結果的にそうなってますね。当然、プランニングにあたって、テレビ以外のメディアやSNS等の価値は素晴らしいと思いますが、テレビによる「発信」の力ってやっぱりすごいと思っていますし、テレビ業界っていろいろ言われますが、今でも結局 大きな影響力があると思うんです。

テレビ的な視点というか姿勢みたいなものも大事にしてます。例えば、YouTuberさんとテレビに出ている芸人さんとでは笑いの取り方は違うと思うんです。YouTuberは自分のコアなファンに向けたノリとか空気感を大事にしますが、一方テレビでは、ファンにもファンじゃない人にも楽しんでもらうことが求められている。どっちが素晴らしいというわけではないんですが、多分テレビの笑いの取り方のほうが難しいと思うし、笑わせられた時の笑顔の数が多いというか…自身のPR思考のベースになっているのはそういうマスに向ける「テレビ的な姿勢」だと思っています。

齊藤:現在の業務では、テレビに限らず幅広いメディアとの関係を構築していますが、テレビに特化していた頃と比べて変化はありますか?

今井:めちゃくちゃあります。最近ではPIVOTなど、テレビ以外のメディアの人と一緒にソリューションを開発することも積極的に行っています。それぞれのメディアの存在意義とか考え方は凄く勉強になります。人としてのノリもテレビとまた微妙に違う。でも、やっぱりWEBの映像メディアを含め、不思議と映像の人と仲良くなりやすいです。静止画の魅力や強さはもちろんわかっているつもりですが、映像って、見た人の受け取り方がより自由だと思っています。その器の広さみたいなものと、より伝わりやすいインパクトの「強さ」が映像の魅力だと思ってます。

齊藤:メディアリレーションズをどのように考えていますか?

今井:テレビに限らずですが、メディアコンサルタントは「WHO YOU KNOW」(誰を知っているか)「WHO YOU ARE」(自分は何者であるのか)の2つの軸を意識して、バランスよく強くしていくべきだと思っています。

この2つの言葉は、僕が1年間ニューヨークで過ごしたときに言われたものです。例えば「WHO YOU KNOW」は、メディアコンサルタントでいえば、「どんなプロデューサー、ディレクター、記者を知っているか」ということです。

ただ、当然知っているだけではよい関係は築けなくて、人との関係がより深くより長続きするためには「WHO YOU ARE」が重要。当たり前といえば当たり前なんですが、メディアコンサルタントとして、このバランスが大事。どっちが欠けていても、メディアコンサルタントにはなれない。チームのメンバーにも「一流の人と仕事をする機会をつくろう」とよく言っています。それによって「WHO YOU ARE」が磨かれるからです。

齊藤:「自分が何者か」と自分で定義するのは難しいですよね。

今井:無理に定義する必要も無いと思います。もともと僕は知識欲があるほうなので、色々手を出してみる分、少し飽きっぽい。だから趣味とか特技とか聞かれて答えるのが得意ではないです。でも、普段から意識しているのは、「全く何も知らない」状態を避けること。プロのレベルではなくても、様々な分野の知識をレベル1や2くらいでも持っていると、レベル10のプロの人とのコミュニケーションの入り口がスムーズになる。逆に自分がゼロの状態だと、そんなプロの人と掛け算したときにゼロになってしまうというか、、、よく言えば、スペシャリストよりジェネラリストの気質があると思います。

知らないことを知ることで豊かになっていく感じが楽しいですし、もしそうやって知り合って勉強させてもらって仲良くなった人が、ふとしたタイミングで一緒に仕事ができるともっと楽しい。ちなみに、最近は効率を重視して、電話やメールで要件を済ませてしまいがちですが、やっぱりそういうコミュニケーションは会うことが前提だと思うし、会うことにちゃんと価値を見出している人がメディアコンサルタントには多いのではないかと思います。

「付加情報」をどれだけ提供できるか

今井:メディアリレーションズの仕事って「ちなみに」が大事だと思っています。コアとなる情報は当然プレスリリースに書いてあるけど、それだけだとニュースにできない、しづらいこともある。それを補完して、インフォーメーションをニュースに変えてくれるのが"ちなみに"の情報。

「”ちなみに”、これって〇〇なんです」という付加情報にこそ価値があり、メディアコンサルタントがいる意味だと思ってます。もっといえば、その「ちなみに」の情報の出し方もメディアコンサルタントのセンスが問われるところ。これという正解はなく、メールかもしれないし電話かもしれない。対面で会って話しても、もしかしたら、打合せの場ではなくて、帰り際にエレベーターまで歩くときが、「ちなみに…」を出すポイントかもしれない。そこは、もう相手の立場に立って、自分がされたらどう感じるかを常に考えてます。

齊藤:聞けば聞くほど、今井さんは「バランサー」だなと思います。ジェネラリストな特性が、テレビの方々に重宝されるんですね。

今井:当然ジェネラリストでレベル1や2といっても、薄っぺらな知識では当然何も役に立たないので勉強はします。じゃあどれくらい勉強すればよいのかと聞かれると明確な答えはないのですが、常に意識するのは、自分が記者だったとして、PRコンサルタントに質問したら、これくらいは答えられるだろうと期待するレベルよりは少し上。

自分がテレビを作る側の立場だったら、この辺は絶対画として撮れるのか質問したり、期待するな思うところまでは調べて備えます。指標としては、「4つの『え』」をベースにしますね。

今井:メディアからすれば、PR会社や広報担当であれば、入社1年目だろうと10年目だろうと「プロ」だと思って接してきます。例えば自分が「チョコレート担当です」となったら、チョコレートのことはそれなりに知っているだろうというスタンスで来る。そこを裏切らないようにしたいんです。例えばカカオの原産国を上から3つくらいは覚えておこうとか、そもそもチョコレートってどうやって作っているのか、何が流行っているのか、などなど。

「あ、この人何も知らないでただ情報を右から左に流すように持ってきているな」と思われるのが、「WHO YOU ARE」的に1番しんどい。

齊藤:知識が足りなくて失敗した、という経験はありますか?

今井:いくつかありますね。ゲーム界隈に全く詳しくない中で、ゲームを担当することになって、界隈での常識的なことも知らなくて、あからさまにがっかりされたりとか。とにかく自分ができることをしようと思って、自分の担当するゲームだけでも詳しくなったり、分からないことは分からないので教えてほしいという姿勢も記者やジャーナリストの方に伝えて勉強しました。

“料理”を持っていくのではなく、“食材”を持っていく


今井:
新人は「とにかくたくさん人に会え」と言われることがあるかもしれませんが、半分賛成で半分違うと個人的には思います。メディアの方との付き合いが浅いときは、会う回数だけでなく「会うタイミング」とか「持っていくネタ」は気にした方がいいと思います。

例えば、自分のチームの若手が、初めて芸能イベントの担当になったとしたら、いま注目されている人気俳優の発表会のネタを持ってメディアのところに行かせてあげたい。そうしたら、メディアの方にも、「お、この若手はいいネタを持ってくるじゃん!」となって、メディアコンサルタントとして、早く覚えてくれるかもしれない。常に、なんかよくわからないネタしかもって来ない人って思われたら、損じゃないですか。

齊藤:大事なポイントですね。やみくもに会っても、ただ心がすり減るだけになってしまうこともあると思います。

今井:あと、メディアはクリエイターなので、リスペクトの気持ちは欠かせないと思います。よく食材で例えるんですが、メディアコンサルタントは「“料理”を持っていくのではなく、“食材”を持っていく」んです。それが明らかにカレーを作る食材だったとしても、「こんなカレー作ってみませんか?」とメディアの人には言わない。あくまでカレーを作るかを判断するのはメディア側で、我々は「こんなよい食材あるんですよ!”ちなみに”こんなスパイスもあるんですよね~。”ちなみに”こんなスプーンとお皿もあるんですよね」などの紹介にとどめる。

メディアコンサルタントは優秀な「卸(おろし)」であるべきであって、あくまで「料理人(クリエーター)」はメディアであるというリスペクトの気持ちは忘れたくないですね。

テレビは、世の中の「普通」を知る一つの指針

齊藤:話が少し変わりますが、昨今テレビがあまり見られなくなっているとも言われています。これからのテレビについてどう考えていますか?

今井:テレビを持っていない人が一定数いるのは事実ですし、テレビ局もそれは理解しています。だからこそ、SNSやYouTubeなど発信方法を工夫しているし、実際にそこでのみリーチする層もいる。でもそこで見られるのは結局、テレビ放送のために作ったコンテンツの切り出しがメインです。

とすれば、テレビで紹介されることを意識して情報設計やネタ作りをする重要性は今までと変わらないなと思います。むしろ、「映像でコンテンツを消費する」という行為は、テレビを見る人も見ない人も変わらないので、いわゆる”画づくり”の視点はもっともっと磨き続けないといけない。

それに、個人的な感想ですが、テレビは、世の中のいわゆる「標準」「普通」と言われる価値観を表現していると思ってます。なので、自分自身はその「普通の軸」をブラさない意味でも、テレビを見ます。もちろんシンプルにテレビが好きだからという理由もあります。PRコンサルタントは「普通であること」とか「普通(世の中の基準)が何か」がわかっていることが凄く大事だと思ってます。当社がよくいう「ちょいズラし発想」も、この「普通」を知らないとできないですよね。そうしないと、ちょいズラしでなくおおズラしになって失敗してしまいます。

テレビとのメディアリレーションズのコツ


齊藤:
企業の広報担当者がテレビインタビューに応える際にポイントとなる点はありますか?

今井:取材の多くは生放送ではなく、後から編集する前提なので、想いは全て話し切ることが重要です。語ったことを後で減らすことはできても、増やすことはできません。話すときは編集しやすいように、短文かつ、句読点のタイミングで、いつも以上に間をとるのはメディアへの配慮になります。一方で、削られたくないことを話す場合は、先に「ポイントは3つです!」と言って3つのポイントを割愛できないようにするなどの細かいテクニックもありますね。

齊藤:新任PR担当者がテレビとのリレーションを築くためにしておいた方がいいことはありますか?

今井:第1に「テレビを見る」ということですね。メディアを知って、「普通」を知ること。その上で「自分たちは食材(ネタ)の卸だ」というスタンスを忘れず、”ちなみに”情報を集めてコミュニケーションを取っていくことでしょうか。自分がテレビディレクターだったらどう作るか?と考えて、「そのために必要な食材をそろえよう」という姿勢を常に考える。

また、番組という「出来上がった料理」からニュースを構成する要素=「食材」を分解して考えてみる、という練習も有効です。そうすることで、自分が担当するプロジェクトに向き合うときにも因数分解して「何が足りていないか」を見つけやすくなります。テレビに限らず、これらの因数分解は絶対に役立つのでおすすめです。


今回も、お読みいただきありがとうございました。

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