見出し画像

“思わぬ炎上”を防ぐために。「じゃない方視点」を持っておこう

企業/ブランドのコミュニケーション活動において、コミュニケーション対象には共感してもらえたのに、「それ以外の人」から批判が起き、炎上に発展する、というケースを目にすることが多くなってきました。

これは、当初はメインのコミュニケーション対象(=一定数の人)の目にしか触れないものだと想定していたものが、ソーシャルメディアなどに投稿されることで、広くさまざまな人の目に触れるようになったことが要因の一つといえます。

例えば、社内で使われている用語や慣習についても当てはまります。

以前は社員の目にしか触れることのなかった、社内チャットのスクリーンショットや内部文書も、ソーシャルメディアで社外に拡散されてしまう可能性が今は否めません。

思わぬ炎上を防ぐには、当初想定していた情報の届け先以外の人の目に触れたとき、どんな反応が起き得るか?という予測を立てることが重要になってきています。

こんにちは、元記者/PRコンサルタントの平林です。

今回は、「コミュニケーション対象以外の人がどんな感情を持ち得るか」を考える上で大切な「じゃない方視点」と、特に注意が必要な3つのポイントを解説します。

「炎上させるモチベーション」に変化も


まず押さえておきたいのは、数年前と比べても、炎上する「文脈」自体はあまり変わっていないということです。当事者への配慮不足や差別表現、不謹慎表現などは依然として炎上につながりやすい傾向にあります。

一方で、炎上にまつわる環境にはここ数年で変化がありました。

X(旧Twitter)は大きく仕様を変更し、広告収益分配プログラムを開始しました。インプレッションを稼げれば収益が得られるという仕組みにより、「インプレゾンビ」(=広告収益を得ることを目的とし、インプレッションを増加させるために大量の意味のない投稿やトレンドをマネした投稿をするアカウント)が出現しました。

こうして投稿を拡散するモチベーションが「間違いをただすこと」に加えて、「お金を稼ぐこと」を目的にした人も増えたことで、たとえ一人の声だったとしても、「炎上することでインプレッションが稼げそう」と判断されれば拡散されやすくなっています。

つまり、不快に感じる人が一人いるだけで、大きな炎上につながるケースがあるのです。

「じゃない方視点」=コミュニケーション対象じゃない人は、どう思うか?


過去に、ある疾患の予防を目的に検診検診を呼びかけるコミュニケーションが炎上した事例がありました。

コミュニケーション対象は、検診対象となる人たち。「今は健康だけど、もしかしたら自分も罹患(りかん)する恐れがある」と、自分ゴト化してもらうことを狙った発信でした。

しかし、そのメッセージを見た疾患のある当事者から「不快に感じる」「配慮不足だ」と指摘が相次ぎ、大きく炎上してしまいました。

このように、コミュニケーション対象からは共感が得られたとしても、それ以外の属性「じゃない人たち」を傷つけてしまうケースがあります。これをいかに防ぐかという点も、発信の際には意識しておく必要があります。

特に注意が必要なケースとして、以下の3つのリスクポイントがあります。

①おとしめる

コミュニケーション対象を持ち上げるために、それ以外をおとしめたり、排除したりしていないか?
例:若年層を啓発するために、高齢層を比較対象にして、若年層を持ち上げる

②分断する

コミュニケーション対象とそれ以外で、対立・分断を生むような表現になっていないか?
例:女性を応援するために、男性と女性を対立させる

③置き去りにする

当事者の気持ちを置き去りにしていないか?
例:疾患の検診、防災への啓発などで、当事者に配慮のない表現を使用する

コミュニケーション対象にとっては共感できる表現だと思えても、それ以外の人を傷つけてしまうと、批判が集まり、取り下げや謝罪に発展しかねません。

一方、コミュニケーション対象に真剣に向き合い続けているからこそ、なかなか気付けないこともあります。チェックの際には、チーム外やコミュニケーション対象とは遠い属性の人など、多くの視点を入れて議論するもの大事なポイントです。

社内の普通は社外の異常?

最近では、社内で使われていた言葉や慣習、ルールが社外に流出し、炎上するケースも出てきています。

社内では昔から当たり前に使われている言葉や、愛着を込めて使っている呼び名でも、語源が差別用語であったり誰かをおとしめる言葉であったりしないか、注意が必要です。

特に使われがちでリスクの高い社内用語は、例えば、年齢や性、容姿に関する蔑称です。「お局(つぼね)」などが分かりやすいでしょうか。社外の人から見ても意味が分かりやすいものだと、より炎上しやすい傾向にあります。

また、意外と使われているのが軍隊用語や戦争用語です。

例えば、ある業界では若手社員を「兵隊」と呼ぶ慣習がありました。実際に兵隊のように扱われていたわけではなく、当事者も特に気にしていなかった一方で、それを知った家族から批判の声が上がったというケースがあります。

現実にはそのような風土はなくても、その言葉を使っているだけで、組織を「軍隊」、社員を「隊員」と捉えている組織だとイメージされ、採用やレピュテーションに影響が出る可能性も出るので、注意が必要です。

他にも、人気がある社員などに対し、愛称として「客寄せパンダ」と呼ぶなど人を動物に例えたり、ランク付けしたりすることも気を付けたいところです。社内のメールなどでジョークとして使用された言葉だとしても、社外に流出したことで炎上したというケースも見られます。

また、「〇〇アレルギー」という言葉は、単に苦手なことに対して使いがちな表現ですが、罹患者からすれば命に関わること。ソーシャルメディア上では、「正しい配慮が受けられなくなる可能性もあるため、軽率に使わないでほしい」という声が上がっています。

このように、「社内では普通とされていても、社員の家族、協力会社、顧客などさまざまなステークホルダーを含めた社外の人が聞いたらどう思うか?」という視点を持つことが大切です。

いつ、どこからどんなふうに社外に流出するかは未知数です。「社内で言っていることだから大丈夫」という感覚はリスクになります。

本来であれば、言葉は文脈を伴うので、その文脈を加味すれば意図も理解してもらいやすいものです。しかし、ソーシャルメディアなどで言葉だけが切り取られ、独り歩きする可能性も多いにあり、意図せぬ誤解を招いてしまうこともあるのです。

多くの視点を入れてチェックする方法


一方で、リスクチェックはアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)をはじめ、自ら気付きにくいものです。

そのような場合は、表現がステレオタイプになっていないか、誰かを不快にさせたりしないかを事前にチェックするために、当チームで開発している「感情リスクチェックシート」の活用がオススメです。

このシートは、企業/ブランドが発信するコンテンツを、どういう人たちが目にする可能性があるか、さらにその人たちがどんな感情を抱くリスクがあるのかを整理し、それに対する企業/ブランドのスタンスを明確化するためのツールです。

感情リスクチェックシート

(▼詳細はこちら)

社外発信の内容はもちろん、前述している「社内用語」や「社内ルール」のリスクの洗い出しにも活用できます。

チェックの際のポイントは、「できるだけたくさんの視点を入れること」
大人数であればいいというわけではなく、「じゃない方視点」を意識しながらさまざまな属性の人の視点で議論することが重要です。

一度、社内の若手からベテラン、性別、部署もさまざまな人たちで、社内にある言葉やルールが、どんなリスクを持ち得るか洗い出してみることもおすすめです。

「何も言えなくなること」ではなく、「届ける確度を上げること」が目的


「炎上するかも」と気にし始めると、「あれもこれも気になって何もできない気がしてきた…」と思うかもしれません。

しかし炎上リスクを考える目的は、萎縮することではなく、伝えたかったことが意図せぬ形で伝わらないように「発信の確度を上げること」。そのための視点の一つが「じゃない方視点」です。

さらに大切なのは、反応が来たときのスタンスを、そもそもの目的や意図に立ち返り、明確にしておくことです

ある企業では、施策に対する批判の声が多く寄せられたことに対し、企画した経緯や思いを丁寧に説明した上で、「以上の理由で施策の取り下げはしません」と声明を出しました。これにより、企業としてのスタンスが社会に伝わり、称賛の声が多く寄せられ、最終的に企業の評価を高める結果につながりました。

つまり、たとえ炎上リスクがあったとしても、一概に取り下げればいいというわけではありません。「誰に」「なぜ」「何を」伝えたかったのか、その意図が世の中の人に納得してもらえるのであれば、取り下げずに丁寧に説明することも一つの手です。逆に、事前のチェックの際にその点がうまく説明できない場合は、内容を練り直す必要があるかもしれません。

背景や意図を整理し、スタンスを明確にしておくと、炎上した際にも焦らずに適切な対応が取れます

コミュニケーション対象に真剣に向き合っているからこそ、リスクに気づきにくいことはよくあると思います。そんなときは、発信する前に一度「じゃない方視点」で改めて企画を眺めてみたり、チーム外や社外の人に客観的な意見をもらったりすると、新たな気づきがあるかもしれません。


PRX Studio Q (電通PRコンサルティング)では、企業やブランドのPR戦略立案から企画、実行までをワンストップで対応いたします。今回の記事でご紹介した「じゃない方視点」をインプットするワークショップも実施しています。ご要望に合わせて柔軟に対応いたしますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。