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「PR」ってなに?|「アピール」でも「#PR」でもない“PRの本質”を考える【基礎編】

みなさんは「PR」と聞くと、どんなことをイメージしますか?

・就職面接などで聞かれる、自己PRのこと?
・テレビの情報番組で新商品が紹介されること?
・インフルエンサーが商品についてソーシャルメディアに投稿すること?

人によってさまざまだと思いますが、これらのイメージはいずれもPRの“本質的な意味”とは異なると考えています。いわゆる「自己PR」は多くの場合、一方向的な「アピール」の意味として使われておりテレビやインフルエンサーに紹介されることは、あくまでPRの手法/戦術の一つです。

・どこまでがPRの領域なのか分からない…
・目標をどう設定すればいいのか分からない…

といった悩みを、企業/ブランドのPR担当者からも聞きますが、こうした悩みや疑問は、「そもそもPRとは何なのか?」を考えることで、解決につながるかもしれません。

今回の記事では、PRの初級編として、私たちが考える「PR(パブリックリレーションズ)」の定義と、「PRの思考と手法」について説明します。


PRとは、世の中との「よい関係性づくり」


まずは「PR」の定義について、世の中にどんなものがあるのか、調べてみました。

「PRとは、信頼のおける、倫理的なコミュニケーション手法を通し、組織と組織をとりまくパブリックとの間に、関係と利益を築くため、意思決定の管理を実践すること」

引用:国際PR協会 https://www.ipra.org/member-services/pr-definition/  

「PRとは、組織と組織をとりまくパブリックの間の、相互に利益のある関係を築く戦略的コミュニケーションのプロセス」

引用:アメリカPR協会 https://www.prsa.org/about/all-about-pr  

さまざまな定義がありますが、共通するのは「組織と組織をとりまく『パブリック』との間に『関係』を築く」ということです。

そもそも、「PR」という言葉は「Public Relations(パブリックリレーションズ)」の略。企業や行政、団体などが、「Public(世の中=生活者、メディア、取引先、株主投資家、従業員など)との間に、Relations(良好な関係)をつくっていくこと」を指します。

こうした言葉の本質を踏まえて、私たちのチームでは、「PR」を「世の中とのよい関係づくり」と定義しています。

近代PRの起源
実務としての近代PRにいち早く取り組んだのは、19〜20世紀初頭のアメリカの「鉄道会社」だといわれています。鉄道は、今ではなくてはならない存在ですが、当時はまだその概念すらない時代。鉄道会社は、その利便性や魅力を、どうしたら世の中に理解してもらえるのか、つまり世の中との「合意形成」を得るためにどうしたらいいかを考えました。その手段として、メディアなどの「第三者」に利便性について語ってもらったといいます。そうして受け入れられた鉄道は、行き来が困難だった都市と都市、郊外をつなぎました。世界中の人の生活と価値観を劇的に変化させ、まさに「世の中とのよい関係」を築いたのです。当時は、PRという概念が浸透しないままに、実務としてPR活動が行われていたといいます。

参考:デジタル時代の基礎知識「PR思考」https://www.dentsuprc.co.jp/releasestopics/news_releases/20180308.html

PRには「思考」と「手法」がある

「世の中とのよい関係づくり」を目指すPRには、「思考」「手法」があり、これらはよく混同されがちです。

冒頭でも触れましたが、パブリシティの獲得やインフルエンサーマーケティングは、「よい関係づくり」を実現する「PRの手法(手段)」として、とても重要な要素です。一方で、その前段には「PRの思考(考え方)」が欠かせません。この「思考こそ、PRの“本質”」ともいえます。

PR業界では、「戦略」と「戦術」と呼ばれることも多いですが、私たちは、それぞれ「PR思考」と「PR手法」と呼んでいます。それぞれ詳しく説明していきます。

❶「PR思考」とは


企業/ブランドにおける「PR思考」とは、「企業/ブランドの発信や行動に対して、世の中/ステークホルダーがどのような反応を起こすか/起こしてほしいか」を考えることです。

これは、日常生活に置き換えると「誰かにプレゼントを贈るときの思考」と似ています。

・どんなプレゼントだったら喜ぶかな?
・この色が好きだったはず!
・最近、引っ越したばかりと言っていたな… と

相手の趣味嗜好や近況を踏まえてプレゼントをいくつか考え、候補の中から一番ポジティブな反応をしてくれそうなものを選ぶのではないでしょうか。

たとえば、高級なプレゼントだからといって、必ずしも相手が喜ぶとは限りませんよね。相手と自分双方の身の丈にマッチしていて、自分が贈るにふさわしいプレゼントかどうかも、大事な点です。

このように、「相手」(世の中/ステークホルダー)がどのような事柄に関心や問題意識を持っているのか。それを踏まえて、「自分」(企業/ブランド)がどのような発信や行動をすると、よい関係づくり(ポジティブな反応をしてくれる、好意度が上がるなど)になるか、を考えること、それが「PR思考」です。

企業/ブランドの“独り善がり”ではなく、相手の立場になって考えることが必須です。ちなみに、「企業」と「世の中」を2つの円で掛け合わせた「エクリプスモデル」というメソッドを使うと、考えやすくなります。

エクリプスモデル

この「エクリプスモデル」メソッドは
〔左側の円〕に、「世の中」の関心・課題
〔右側の円〕に、「企業」の強み・特徴、言いたいこと・やりたいこと
を書き出すことで、この2つの接点がどこにあるかを整理するのに役立ちます。

企業側の取り組みや情報発信が、
・ステークホルダーの関心ゴトと関連しているか?
・報道機関やその先の読者にとって有益な情報となり得るか?
といった「接点」を見つけていきます。

具体的には、企業側の取り組みにより、ソーシャルメディアでどのような投稿が生まれそうか? メディアでどんな見出しの記事が出るとよいか?という具体的なイメージを指標にすると、発想しやすくなります。

〔事例分析〕草花業界「母の日を母の月へ」

花や草木を生産・販売する業界の関係団体でつくる「日本花き振興協議会」が2020年に実施した事例を、エクリプスモデルを使ってご紹介します。

〔右側の円〕日本花き振興協議会の「強み・特徴」
・草花業界全体の事情や状況を深く理解し、草花の魅力を発信

同協会は、草花の生産・流通・小売・文化の団体がひとつとなり、日本の花文化の発展を目指して活動していることが特長。草花業界全体の事情、状況を深く理解した上で、草花の魅力を伝えられることが強みです。

〔左側の円〕世の中の「問題・関心」
店内の3密を恐れて、母の日のお花屋さんに行きにくい問題

一年で一番お花屋さんに人が集まるのは「母の日」。しかし、2020年当時は新型コロナウイルス感染症の流行が深刻化。店内のスぺ―スが限られている場合も多く、来客が集中すると「3密」を避けられない恐れがありました。

〔世の中と団体の接点〕「母の日を母の月へ」

そこで同協会が考えたのが「母の日を、母の月へ」という取り組みでした。これは「母の日」当日だけでなく、5月中は「母の月」として、いつでも母親に感謝を伝えようと呼びかけたものです。

コロナ禍で、結婚式の延期やお店を開けないお花屋さんが続出。農家や市場には大量に花が売れ残り、廃棄されるなど、飲食業界やイベント業界同様に草花業界も大打撃を受けていました。同協会はこうした業界全体の事情も踏まえた上で、草花の魅力をより長い期間楽しんでもらうことを目指しました。

この企画は社会課題の解決策の一つとして、多くのメディアに取り上げられました。結果的に業界は配達の集中も避けられ、ピークの期間が伸びることで、需要を引き上げることにも寄与。「母の日は当日だけ祝う」という世の中の意識と行動を変化させ、お花屋さんへの集中的な混雑を避けることにつながりました。

❷「PR手法」とは

「PR思考」に対して、「PR手法」は、企業/ブランドのメッセージをどうやって届けるかという「手段」や「技」のことです。

PR手法はさまざまありますが、わかりやすいもので言うと、メディアで記事/ニュースとして取り上げられることで届ける、いわゆる「パブリシティ」もそのひとつです。例えば「パブリシティ」獲得のためには、

資料ベースの発信
・プレスリリース、ニュースレターの配信
・ファクトブック、プレスキットの配布 など

実施をともなう発信
・記者発表会、プレスセミナー、プレスツアー
・イベントの開催
・他企業とコラボレーション施策 など

などがあります。(メディアリレーションズの手法は、こちらの記事でも説明しています)

PR手法は、その他にも、ソーシャルメディアの企業公式アカウントでの発信、キーパーソンを起用したキャンペーン施策、プロジェクト型の長期的取り組み、広告出稿など、多様な手法があります。いずれも「PR手法」の前に、「PR思考=世の中(パブリック)視点」で考えることが必須です。

「PR」は、世の中の意識や行動を変える可能性を秘めている

このように、企業/ブランドがPRを行う際、「PR思考」で世の中との接点を見つけ、それに合った「PR手法」を選ぶことで、

・よい関係づくりにつながる「ポジティブな反応」を起こしてもらえる
・企業/ブランドの発信や行動を、「ステークホルダーが自分ゴト化し、興味を持ってくれる」機会が増える
・メディアの記者が企業の取り組みを「取材したくなる」

といったように、企業/ブランドの可能性を広げることができます。先述の「母の月」の事例のように、世の中の意識や行動を変え、問題を解決することにもつながります。

今回は「PR」の定義についてまとめました。みなさんが仕事を進める上で、社内/チーム内で「PR」について認識がバラバラな場合には、「思考」と「手法」に分けて整理するのもオススメです。

また、さまざまな「相手」とよい関係づくりを目指す「PR思考」は、いわゆる広報担当だけでなく、ビジネスの多くの分野で活用できる考え方です。「企業と自分のマッチング」がテーマとなる就職活動でも、大切な考え方だと捉えてます。


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