さまざまな受け手に寄り添った語り口を探る「マルチコンテクスト」
友人と会話をするとき、相手の状況や関心、笑いのツボに合わせて話の切り口や話し方を変える方が、より相手に伝わりやすくなったり、自分の話に興味を持ってもらえたりすることがありますよね。
PR活動においても、同じようなことがいえます。企業やブランドの情報発信をする際に、さまざまな生活者やメディアの関心や興味から逆算して、どんな語り方をすると、ポジティブな反応をしてくれるかを考えていきます。この考え方を、私たちのチームでは「PR思考」と呼んでいます。
例えば、新商品の情報を出すときに、つい商品の“スペック”だけに着目しがちです。しかし、商品の変遷、市場トレンド、商品開発者、パッケージのデザイン(デザイナー)、調査、モーメント、マーケティング…など商品の周りにある情報も、切り口次第で「多面的な文脈=マルチコンテクスト」として情報設計につながります。その切り口が、世の中から見て情報価値があれば、より多様な属性の人に届きやすくなると考えられます。
こんにちは、元記者・PRコンサルタントの平林です。今回は「PR思考」のうち、発信する情報を多面的に設計することで、より多様な人たちに情報を届けるための思考法「マルチコンテクスト」についてご紹介します。
メディアの“守備範囲”を整理する
普段の生活の中で、たくさんの情報の中から自分が欲しい情報を見つけ出すために、自分の属性や関心に合った「メディア」から情報を得ることが多いのではないでしょうか。
「メディア」と一口にいっても、テレビや新聞、雑誌といったものから、ニュースサイトや専門サイト、さらにはTwitterやTikTokなどのソーシャルメディア、まとめサイトやクチコミサイトなど、たくさんのメディアが存在しています。
冒頭でも例に挙げた友人とのコミュニケーションと同様に、メディア側(編集者や記者)の立場に立って考え、どのような情報であれば「自分たちの読者に関係がある」「自分たちの守備範囲だ(報道するべき対象だ)」と思ってキャッチしてくれる可能性があるかを理解・整理しておくことは、メディアに向けた情報発信をする上で必要不可欠です。
日頃、メディアを閲覧する際に、同じテーマでもメディアによって語られ方にどんな違いがあるのか、なぜその切り口で見出しを立てているのかなど、傾向を探ることがオススメです。ネットメディアは、IT系や〇〇系など取り上げる分野が細分化されているので分かりやすいですが、テレビや新聞などは、同じ番組や紙面の中でジャンルの異なる多種多様な情報を扱っています。
ここで、「メディアの守備範囲」について、“担当部署”になぞらえて少し解説したいと思います。(ご存じの方は、飛ばして次の見出しまで!)
ニュースやドラマで、「社会部」「政治部」などといった言葉を耳にしたことがあるでしょうか。新聞社やテレビ局などでは、社内で“担当部”が分けられていることがあります。名前は各社によって多少異なりますが、多くは政治部、経済部、社会部、科学部、文化部、運動部、国際部などに分けられ、それぞれの紙面や番組、コーナーを担当しています。
取材分野のカテゴリー分けは、例えば以下のような感じです。
同じテーマでも、“取り上げ方(切り口)”が異なる
各部では、同じテーマでも追いかけている情報が違うため、取り上げるニュースの文脈が変わってきます。
例えば、「感染症の流行」をテーマにニュースをつくるときに、下記はあくまで例ですが、
といったように、メディアの部署やカテゴリーによって、ニュースの文脈が異なることを理解しておくことは、企業活動としてどんな情報がないとそもそもニュースにならないか、プレスリリースの送付先をどの部署宛てにするかといった、情報設計および発信に役立ちます。
文脈が広がれば広がるほど、課題解決につながる
例えば、生理中にも安心してはける「吸水ショーツ」を販売している会社が、ショーツの販売に合わせて、生理痛に悩む女性たちを応援できるような取り組みを考えるとします。
ショーツの販売と応援メッセージなどを発信するだけでは、商品ニュース以外ではなかなか取り上げられないでしょう。
ここで、先ほどの「部」をヒントに、どんな情報の切り口があるか考えてみます。全てのカテゴリーに当てはめるというのはなかなか難しいので、2~3つの切り口を増やせないか考えてみるのがよいでしょう。
まず、「生理痛」に関して、どのくらいの女性が、どんな悩みを抱えているのか実態を探ることが必要です。私たちのチームでは「ソーシャルハンティング」という手法などを用いて、一人一人が抱える”鬱憤(うっぷん)”を探っています。(※ソーシャルハンティングについては下記の記事で詳しく紹介しています、ぜひご覧ください)
このほかにも、女性が抱える課題と向き合ってきた企業のノウハウを生かし、実態調査を行うこともできます。ソーシャルハンティングや調査の結果、例えば「生理痛を我慢しているという人は、〇〇%」「周囲に相談できていない人は□□%」「そのうち××%が仕事に影響した。休業を余儀なくされたのは△△%」といったファクト(事実)が判明し、情報発信するとします。
「これだけの人が実際に苦しんでいる」というファクトが示されることで、メディアが「社会問題」として提起する可能性があります。特に、女性にまつわるニュースを扱うメディアやソーシャルメディアアカウントは関心が高そうです。
さらに、なかなか相談しづらいという結果を踏まえ、著名人に経験を語ってもらうことで、苦しんでいる生活者が声を上げやすくなったり、経験の告白自体がエンタメメディアでニュースになったりすることもあります。
まずは社内から声を上げやすくしようと、社内向けの講習会や制度改革を進めることも重要です。企業が発信するメッセージにより説得力が出ますし、企業の取り組みとして取材されたり、他社が賛同してくれたりする可能性もあります。
さらには、本音を話し合うきっかけやより気軽に話せるツールを作ることで、生活者の役に立てるかもしれません。専門メディアが新しいコミュニケーションの形として取り上げ、広めてくれる例もありそうです。
文脈が増えることで多くの人に届き、社会問題化していくと、世の中の意識に変化が生じたり、制度が改善されたり、課題解決に大きく寄与するきっかけにもなり得ます。
相手に合わせて伝え方を変えていくことは、伝えたい相手に寄り添うことであり、より良い関係性を築くきっかけにもなるはずです。
PRX Studio Q (電通PRコンサルティング)では、企業やブランドのPR戦略立案から企画、実行までをワンストップで対応いたします。PRスキルアップセミナーやアイデア発想ワークショップなども行っています。ご要望に合わせて柔軟に対応いたしますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。