日本代表の2人が見た世界のクリエイティビティと6つのキーワード【カンヌライオンズ2022】
3年ぶりにリアルで開催された、世界最大のクリエイティビティの祭典「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」。ヤングカンヌ PR部門国内代表の佐藤佑紀・森光菜子ペアがカンヌ現地に赴きました。
「改めて、PRって面白い!」(佐藤)、「クリエイティブの力をビシビシ感じた」(森光)
2人が目にした6つの世界のクリエイティビティトレンドと合わせて、受賞キャンペーンをレポートします!
今年の6つのキーワード
3年ぶりのリアル開催となったカンヌライオンズ参加者が口々に話していたのは、「今年は傾向がなくて予測が難しい」という言葉でした。その中でもいくつかの頻出ワードを拾って、傾向を紹介していきます。
①Creativity for Growth
P&Gの最高ブランド責任者であるマーク・プリチャード氏は、講演の中でCreativityを「成長のための力、善のための力(Creativity for Grouth)」と評し、さらに「ビジネスを広げていく視点でのクリエイティビティが評価される時代になっている」と発言しました。キャンペーンの終了以降も、社会や経済に影響を与え続けていけるかという視点が、より重視されている傾向がありました。
②Collaboravility(Collaboration+Creativity)
今回目立ったのは、大きなテーマの課題解決のために、ブランドや企業同士が協力し合い、上下の関係ではなく、チームスポーツ的にお互いの長所を引き出し合う姿勢での強固なコラボレーション施策でした。ニューヨークのクリエイティブエージェンシーWiden + KennedyのCEO ニール・アーサー氏も、「ブランドを保護し過ぎるのではなく、多くの人が共創していくブランドが素晴らしいコミュニケーションを生む」と近年の傾向を表現しています。
-Dole×Ananas Anam(素材系スタートアップ):『Piñatex』
③Metaverse
メタバースは最近日本でもよく聞くワードですが、世界的に見ても活用方法はまだまだ模索中なのだろうという感覚でした。ただ、メタバースが攻撃的なものでなく、人間的な温かみがあり、ダイバーシティが尊重される良い世界(ベターバース※)であるために試行錯誤している、ということは共通している印象です。“ベターバース”の具現化に成功した事例が評価されていました。
※消費者トレンド予測会社WGSNのバイスプレジデントであるCassandra Napoli氏は、メタバースをテーマにした講演の中で、「Web 2.0の世界に存在する問題を心配するすべての人も含め、仮想世界を開発することが重要です。包括的で多様性があり、安全であることによって、人々が参加したい!と思う仮想世界を構築する必要があります。」と、メタバースにおけるダイバーシティの重要性を述べた。
-Entourage(非営利団体):『Will, the first homeless person of the Metaverse』
④Diversity, Equity, and Inclusion
すでにDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)は標準装備とされており、マイノリティのための施策から、マイノリティと共に価値をつくり出す施策が評価されています。例えば、ノンバイナリー向けの選択項目を入れた「性別選択欄のコード」を当事者コミュニティと共に制作し、オープン化した『Beyond Binary Code』という施策では、自社だけが活用できるコードを開発するのではなく、市場全体にそれを開放したことがポイントです。自分だけが勝ち残るということの価値から、全体で強くなるということへの価値の転換が見られました。
-Spark(通信会社):『Beyond Binary Code』
⑤Humanity
一方で、社会課題解決やメタバースなどの新潮流に対する揺り戻しも見られました。直感的に笑ってしまうものや人間味を感じる施策に対して、「このキャンペーンを見て思わずみんな笑っちゃった、満場一致で評価は決まったよ」という審査員コメントが多く聞かれました。SDGsを始めとする「意識すべきこと」が過剰にあふれる現代において、この肩の力を抜いたクリエイティブへの揺り戻しは非常に興味深い現象でした。
-SKITTLES:『Apologize the Rainbow』
⑥Power of Creativity
ここ数年のカンヌは「Creativity for 〇〇(社会課題)」のように1つのテーマにクリエイティビティの力で挑む取り組み傾向がありました。今回はそれよりも、世界各地に点在するさまざまなテーマに、クリエイティブの力で各者の向き合う意志を集約し挑む「Power of Creativity」の流れを感じました。実は、この言葉は初日のゼレンスキー大統領のスピーチでも出てきていたものでした。
以上、6つのキーワードと施策でした。現地で審査員や実際に施策に携わった人々から放たれる言葉には、力強い輝きがありました・・・!
今年のPR部門の振り返り
ここまで全体の傾向を見てきましたが、PR部門ではどうだったのでしょうか。
PR部門の審査員長であるエデルマンのJudy John氏は授賞式にて“Future is PR”と力強く述べ、3つの要点を語りました。
その他の傾向として、
などがあります。
この傾向がある中、PR部門グランプリを受賞したのは、THE BREAKAWAYという、スポーツメーカーが提出したキャンペーンでした。
■ PRグランプリ受賞キャンペーン
-デカトロン(フランスのスポーツメーカー)『THE BREAKAWAY』
▼アイデア+エグゼキューション
「スポーツとその恩恵を全ての人が得られるようにすること」というパーパスを持つ、フランスのスポーツメーカー「デカトロン」のベルギー支社は、囚人たちが外界から遮断され、精神的に不安定な状態にあり、更生するための障害になっているという課題に着眼しました。
Zwiftというバーチャルプラットフォームを活用し、一般の人々と囚人の交流をeスポーツで実現。史上初めて囚人がオンラインに接続された状態になりました。さらにはベルギーの法務大臣らとバーチャル上で対戦・ライブ配信したことで、囚人の社会復帰を後押しするこの取り組みは広く知られることになりました。大臣はこの施策をベルギーの全刑務所へ拡大することを決定するなど、施策は広がり続けました。
▼評価ポイント
一般の人々と囚人が一緒にレースをしたことはもちろん、法務大臣とレースをしたり、刑務所の警備員とレースしたりと広がりもありました。囚人にインタビューを行い、コンテンツとしてPodcastで配信したところ、多くの人に聴取されています。
審査員長のJudy John氏がいう①企業やブランドのスタンス②具体的なアクション③持続的なムーブメントという3点全ての側面が凝縮されており、メタバースを使ってベターバースといった観点でも評価されていました。
▼佐藤・森光の所感
国を動かした納得のグランプリだと思う一方で、日本だと囚人を巻き込んだ施策にどこまで実現性があるだろうか、世論を説得できるだろうか、ということは思いました。日本に置き換えて考えてみると、よりリアルなアイデアに落とし込めるかもしれないです。バーチャル上の世界だからこそ、交流を持つことができる層へのアプローチという視点が参考になりそうです。
〔追記〕こちらの記事では「カンヌライオンズ2022」PR部門を、当社が開発したアイデアを発想する8つのコツ『COREIDEA』を使って施策を大解剖しています。
PRX Studio Q (電通PRコンサルティング)では、企業やブランドのPR戦略立案から企画、実行までをワンストップで対応いたします。PRスキルアップセミナーやアイデア発想ワークショップなども行っています。ご要望に合わせて柔軟に対応いたしますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。