【元日本代表が勝手に解説!カンヌライオンズ2024】PR部門受賞作品の「ある共通点」って⁉
今年6月にフランスのカンヌで開催された、世界最大のクリエイティビティの祭典「Cannes Lions International Festival of Creativity 2024(カンヌライオンズ2024)」。
先日の記事では、PR部門グランプリ施策について速報的に解説しました。
今回の記事では、広報/PR担当者が、カンヌライオンズの受賞施策を「すごい!」で終わらせず、日常業務のプランニングに生かすことのできるヒントを見つけるために、グランプリ施策に限らず、受賞施策をもっと深掘りして解説します!
こんにちは!毎年カンヌを楽しみにしているカンヌウオッチャー兼PRプランナー森光です。
私自身も2022年に、ヤングカンヌPR部門国内代表として現地に赴いたことがあります。今回は、グランプリ以外の受賞作品において共通のプランニングのヒント/潮流を勝手に考察してみましたので、参考にしていただけたらうれしいです!(※あくまで個人の見解です)
“●●●”を自社の商品にしてしまうことで、自然な発話を増加させた…?
今回分析したPR受賞作品のいくつかには、“ある手法”の共通点がありました。その共通点について、2つの施策を通してご紹介します。
Sweethearts Situationships
Tombras, Knoxville/ Sweethearts / 2024
Ketchup and Seemingly Ranch
Rethink, Toronto / HEINZ KETCHUP / 2024
2つの共通手法とは?
この2つの施策の共通点は、企業が全く新しい文脈で何かを発信するのではなく、すでにコミュニティーの中で発話されていた言葉や文脈に全力でタイムリーに乗っかり、そこでコミュニケーション施策を展開するというものです。
このような施策は本来、その反応の速さや実際に商品に落とし込むという、アクションにこぎつける実行力が注目され、「そこまでやるんだ…!」と評価をされることが多いかと思います。発話を常にウオッチしたり、すぐにプロダクトに落とし込んだりするには、資金や人手、実行力、何よりもスピード感が必要で、そこは評価に値するポイントであることは間違いありません。
一方で、想像してください。例えば異国の地に行った際に、現地の方と仲良くなろうと日本語で話しかけ続けても、なかなかコミュニケーションは取れませんよね。おそらく多くの人が、その地になじむ言語やカルチャーに合わせてコミュニケーションを取ろうとすると思います。
前述の2つの施策手法も同じで、まずはコミュニティ(関係を築きたい相手)の使用言語を借りることから始める、ということが、関係づくりにおいて大事な姿勢ではないか、ということです。
その施策、本当は伝わっていないかも?「共通言語」を探そう
PR=public relationsは、「世の中やステークホルダーとのよい関係づくり」、つまり、誰かとよい関係を築くために、どうすればいいかを考えることだと思っています。
そのためには、相手の立場に立って、相手に伝わる言葉を使って話しかけることが基本になります。
自社商品やサービスが、なかなか生活者に受け入れられない…というとき、もしかすると相手にとっては聞き慣れない、理解しづらい言葉を使ってしまっているのかもしれません。
相手の関心や問題を把握し、時にはコミュニティではやっている“ユ―モア”を入れながら、彼らの言語で話しかけることで、「これは自分のための商品/サービスかも…!」と心の距離が縮まり、ファンになってもらうことが可能なのだと、2つの施策を通して感じました。
でも、秒速で「時代遅れ」に。いつでもアップデートを!
一方で、自戒も込めて注意しておきたいのが、ソーシャルメディアで発話される言葉やミームは、すぐに古いものになってしまうということ。毎年、「今年のZ世代の流行語ランキング」が話題になりますが、翌年には誰も使っていない、なんてこともよくあります。
したがって、相手がすでに使っている言葉を活用するという手法は、少しでもそのタイミングを逃すと、時代遅れと思われてしまう恐れがあります。
また、トレンドを取り入れたつもりでも、その文脈を理解していないと「全然分かってない…!」「そのブランドに言われたくない…!」など、逆に炎上するリスクもあります。
自社がそのコミュニティの中でどう思われているか/思われそうかの見極めもとても大事です。単に「今話題になっているから」という理由だけで判断しないようにしましょう。
【森光の考察】企業と生活者がより対等に
2つの施策を通して、世の中に受け入れられるには、【企業が自分たちの「ありたき姿」を掲げ、一方的に発信し、人々を巻き込んでブランドを創っていく】というスタイルよりも、【すでに存在する“誰かの言葉や気分”に寄り添い、人々と共にブランドを育てていく】というスタイルが今の時代にはフィットしていると改めて感じました。
企業が何か大きなムーブメントを起こしたいとき、他企業や団体、時には競合他社と手を組んでアクションするというのは、正攻法の一つです。一方で、手を組む対象は、“生活者一個人”にも広がっているのではないでしょうか。
生活者の声が反映され一緒にブランドを創り上げることで、生活者と企業が対等な関係となり、ある種の“仲間意識”が生まれますし、参加した生活者はきっと誰かにおすすめしたくなるでしょう。そうすれば、情報もより広がりやすくなるはずです。
特定のインフルエンサーの力を借りて情報を広めるというより、生活者一人一人に小さな範囲でのインフルエンサーになってもらうことで、さらなる広がりを生み出すという手法が今後ますます重視されていくかもしれません。
最後に、今年の受賞施策ではないですが、過去にも同様の手法を使った施策が受賞していたので、少し紹介します。
Bless Your Fing Cooch
NEWYORK / EOS / 2022
なかなか人とは話しづらい、デリケートゾーンのシェービング。
TikTokクリエイターのCarly Joyが、シェイビングクリーム「eos」の使用方法を“ありのまま”(Unfiltered、という言葉がここでは多用されていました)にTikTokで解説し、若者の間で話題に。
「eos」は、Joyのタブーを破る姿勢に敬意を表し、彼女の解説文言を、商品の使用方法としてそのままプリントした限定商品 「Bless Your F#@%ing Cooch」としてプレゼントしました。
「私の解説が使用方法として印刷されてるんだけど!笑」と喜んだJoyはその限定商品をTikTokに再び投稿。
すると「どこで買えるの?!」「売ってほしい!」と販売を求める声が集まり、eosはこれを実際に商品化しました。
明るみに出すことをタブーとされる話題を扱った彼女の発言を、全面的に祝福し、相乗りすることで、ユーザーの味方となり、売上に大きく貢献する施策になりました。
いつだって、誰かと仲良くなるのは、うれしいですよね!
昨年のカンヌライオンズもこちらで解説しています。森光の昨年の解説記事は、こちら。
今回も、お読みいただきありがとうございました。
PRX Studio Q (電通PRコンサルティング)では、企業やブランドのPR戦略立案から企画、実行までをワンストップで対応いたします。PRスキルアップセミナーやアイデア発想ワークショップなども行っています。ご要望に合わせて柔軟に対応いたしますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。