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調査PRとは【基礎編】|ファクト発掘でWHYとNEWを強化する

PRにはさまざまな手法がありますが、「調査PR」といわれると、皆さんはどんなものをイメージするでしょうか?

例えば、医薬品メーカーの「ツムラ」は、働く女性の8割が、心身の不調を抱えていても、普段通りに行動してしまう「隠れ我慢」を抱えているという調査結果を発表。データとともに、そうした女性たちに寄り添うメッセージ広告を新聞に掲載しました。くわしくは、こちら

また、「バンダイ」のカプセルトイブランド「ガシャポン®」は、業界シェア1位なのに、正式名称が4%(※2022年の調査当時)の人にしか知られていないという調査結果を発表し、自虐的かつチャーミングなコミュニケーションを展開しました。くわしくは、こちら

このように、「調査PR」とは一般的に、企業/ブランドの商品やサービスに関連する生活者の傾向や社会の潮流について調査を実施し、その結果を活用したコミュニケーションを行ったり、その商品やサービスが解決したい世の中の問題を提起したりするPR手法の一つです。

調査結果の内容が驚きや共感を生む場合、その数字自体がニュースで取り上げられ、ソーシャルメディアでもシェアされ、大きな議論を巻き起こすことも、少なくありません

つまり、場合によっては、調査データ自体が、新商品や新サービスと同様に「企業/ブランドの新しいコンテンツ」となり得ます

特に最近では、SDGsへの関心が高まる中で、自分たちの取り組みを通じて解決したい社会課題をテーマにm調査PRを実施する企業/ブランドは増えています。

こんにちは。データストラテジスト/PRプランナーの橋本です。データ活用の専門部署で、企業のブランディングや商品・サービスに関する調査PRを担当しています。

「調査PRってなんとなく知っているけど、実は目的がよく分からない…」
「実施するに当たってのコツやヒントが知りたい!」
「調査PRの仕事に関心がある」

今回は、そんな方々に向けて、「調査PR」の意義や設計の基礎的なポイントについて、ご説明します。

なぜ調査PRをやるのか?

❶WHYを強める

調査PRの1つ目の意義は、「WHY」を強めること。

ここでいう「WHY」とは、企画の「起点」や「背景」のことで、企業/ブランドが“なぜ取り組むのか”という理由を明らかにすることです。データを活用すると、企業/ブランドが一方的に意見を主張するよりも説得力が高まります。

生活者やメディアは、企業/ブランドがその施策に取り組む背景を、よく見ています。その背景があいまいだったり、企業/ブランドとマッチしていなかったりすると、“ウオッシュ”(うわべだけを飾ったりごまかしたりすること)や“こじつけ”だと見られてしまう恐れがあります。

調査PRで「理由」を数字というファクトとともに浮き彫りにすることで、「取り組む理由」「商品化する理由」に納得感・相応感をもたらすことができます

事例 ライオン「洗っても蘇るイヤなニオイ『ゾンビ臭』をやっつけろ!」
消費財メーカー「ライオン」は、消臭効果の高い新商品の洗剤「トップクリアリキッド抗菌」発売に当たり、洗っても戻ってくる嫌な臭いに「ゾンビ臭」という名前をつけ、そうした臭い悩みを97.6%の人が体験したことがあるという調査結果を発表しました。 くわしくは、こちら

「実際に多くの人がゾンビ臭に悩まされている」というファクトを調査で裏付けることによって、「洗濯物のニオイ悩み」という比較的一般的な課題の中でも、多くの共感を生み、その商品によって解決したい問題を明確にすることで、新商品の訴求力を強化しました。

❷NEWをつくる

2つ目の意義はNEWをつくること。

調査結果そのものに、生活者やメディアが驚きや共感を感じるような、ニュース性があることもポイントです

調査の切り口を考える際に、ニュースになりやすい6つのポイント「PR IMPAKT®」でも重視している「初」「社会性」「分かりやすい数字」「季節性」といった要素を盛り込めるように仮説を立て、調査設計をするのがオススメです。

調査結果に新奇性があると、それ自体を企業/ブランドの新しいコンテンツとして発信できるメリットもあります。

事例 ツムラ「#OneMoreChoiceプロジェクト」
本noteの冒頭でも紹介しましたが、「ツムラ」は、全国の20代~50代の⼥性10,000⼈に対し調査を実施し、「心身の不調を感じながらも​我慢して普段どおりに仕事や家事をしている人が8割」という結果に着目しました。そうした我慢を「隠れ我慢」と名付た上で、メインコピー「女性の8割が隠れ我慢を抱えている」では、調査結果の数字をそのまま活用しています。
ファクトがコミュニケーションやプロモーションの起点になるだけでなく、ファクト自体が新しい情報コンテンツとして、コミュニケーションのメインになっている事例です。
詳しくは、こちら

「コミュニケーションの起点を明確にする」=「WHYを強める」、そして、「新奇性のあるファクトによって、情報価値を高める」=「NEWをつくる」こと。この2点が調査PRの大きな強みです。

「誰に」「何を」聞くか

では、実際にどのように調査を設計していけばいいのか、ポイントを説明していきます。今回は、アンケートやヒアリングなどで生活者の考えや行動を把握する「意識調査」について考えてみましょう。

考えるポイントは、「誰に聞くか?」「何を聞くか?」の2つです。

❶誰に聞くか?

調査対象は必ずしも当事者だけでなく、さまざまな方向からアプローチが可能です。事例を交えながら考えてみましょう。

■「比較対象」
目的(例):
働く人がメインターゲットである缶コーヒーメーカーが「令和の働き方」について調査をしたい。
▼調査対象(例):
働く人の大半を構成する20~60代の男女に調査。年代ごとの意識ギャップを見る。必ずしも当事者だけを調査対象者とするわけではなく、場合によっては、比較対象となる層をターゲットにすることも。

■「周囲」
目的(例):
介護用品メーカーが、「シニアの介護に対する意識」について調査したい。
▼調査対象(例):
今後介護を受ける当事者になる可能性が高いシニア層をメインとしつつ、介護を行う側の「介護職員」や「シニアの親を持つ子ども」などにも調査を行う。その上で、世代や「介護を受ける側」「介護をする側」での意識ギャップを見る。

■「地域」
▼目的(例):
「家での生活」をよりよくすることを目指すハウスメーカーが、「生活者の育休取得率や現状」について調査したい。
▼調査対象(例):
年代や業界だけでなく、都道府県別の調査を実施。都心と地方では状況が大きく異なることを考慮し、生活者が自分ごと化できて、地域に合わせた課題を浮き彫りにできるように設計する。

❷何を聞くか?

「誰に聞くか?」が決まったら、その調査対象の関心について仮説を立てていきます。

「PR」とは?

「PRの本質」は「企業/ブランド」と「世の中」の接点を探すことだと考えていますが、調査PRで「何を聞くか?」を考えるときも、この考え方が大切です。

世の中の関心事(図の左側)を調査し、企業/ブランドの訴求内容(図の右側)との接点(図の真ん中)を導くことが調査PRです。企業が訴求したいことに終始した「売るための都合のよい調査」と捉えられると、せっかくの調査データも価値のあるファクトとして見られなくなってしまいます。

「PRの本質」については、下記の記事で詳しく解説しています。

“接点”を探す3つのヒント

世の中ニーズと企業ニーズの接着が大事なのは分かっていても、どう接着させればいいのか、接点をどう探せばいいのか、難しく感じる場合もあります。そんなときに参考になる、3つのヒントをご紹介します。

❶モーメント

モーメントとは、「〇〇の日」などの記念日、年次イベント、季節の変わり目などのタイミングのことです。生活者の注目が高まったり、メディアが報道する時期は、世の中との接点が生まれやすいタイミングといえます。

モーメントについては、下の記事で詳しく解説しています。

ちなみに、特定のモーメントの当日だけでなく、少し前に情報発信しておくと、そのモーメントが最も盛り上がる期間(直前~直後)までに取材や制作ができるので、メディアなどに取り上げてもらいやすくなる場合もあります。

また、モーメントは、発表する「タイミング」にも「内容」にも、どちらにも活用ができます。

例えば、
■「タイミング」に活用
お菓子や製菓材料を販売する企業が、「スイーツの日」である3月12日に「スイーツに関する意識調査」を発表する。

■「内容」に活用
家電メーカーが、酷暑による熱中症の話題を踏まえて、「高齢者」のエアコンの使用状況に関する調査を実施する。

❷トレンド

多くの人が今、関心を抱いているトレンド/潮流を押さえることです。生活者やメディアが興味を持ちやすい、トレンドになっているテーマは、関わる人口が多いテーマといえます。

当社で2022年に、Yahoo!ニュースに掲載された調査PRの記事掲載数をモニタリングしてみると、「働き方」「お金」「子ども」が上位に来ていることが見えてきました。

例えば、「美容」という領域で調査をしたいと考えた場合、もちろんそのまま美容をテーマに調査することも1つの方法です。

一方、より多くの人に関心を持ってもらいたいときには、
「美容」×「働き方」=「働く女性の美容意識・実態調査」
「美容」×「お金」=「美容にかける金額実態調査」

など、トレンドを押さえた切り口となるよう工夫すると、情報に振り向いてくれる人の数が増えます。

❸n=1のイシュー

旬なモーメントや、多くの人が関心を寄せるトレンドを設定した上で、生活者一人一人(n=1)が自分ゴト化しやすいイシューを調査結果から提示することも効果的です。

n=1のイシューは、ソーシャルメディアに投稿されている声や、自分や周囲の日頃のモヤモヤから見つかることが大いにあります。まだ数値化・可視化されていない「問題の兆し」を、調査で明らかにできると、「そうなんだ!びっくり」「確かにそういうことってあるかも」「よく言ってくれた!」と高い共感を得られます。

n=1のイシューを見つける方法として、下の鬱憤構文やソーシャルハンティングもオススメです。

これらの視点を基に企画を考え、仮説を立てられたら初めて、質問する内容を考え、調査を開始します。過去に世に出ている調査を参照したり、ソーシャルメディアや身の回りの人の意見を聞いたりなどして、自分が出した仮説をある程度検証しておくことも、とても大事です。

調査データは“世の中との接点”を裏付ける

調査データはPRの起点になる強いファクトとなります。「世の中の関心事」と「企業が取り組みたいこと」が重なる部分を探し、その接点を調査で裏付けることで、生活者にとって価値のある情報を提供しながら、企業/ブランドの認知やレピュテーションを高めることができます。

PRの根幹になる「ファクト」を、調査データから導く考え方を取り入れてみてはいかがでしょうか。次回以降、実際の企画を立てる手順の例や、リリースの書き方、アウトプットへの落とし込み方などもご紹介する予定です。


PRX Studio Qでは、「鬱憤構文」を活用したワークショップなども行っております。もし興味がございましたら、お気軽にご相談ください。

prx-q@group.dentsuprc.co.jp


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