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『ブラインド・コミュニケーション』とは?|PRの先輩に聞いてみました

PRの仕事についてその分野のプロフェッショナルにインタビューをする「PRの先輩に聞いてみた」シリーズ。

こんにちは、PRプランナーの岩澤です。今回は社会課題起点のコミュニケーション領域を得意とするPRコンサルタントの石井裕太に、企業やブランドのそもそもとこれからを問うための新たなアプローチ「ブラインド・コミュニケーション」について聞きました。

▼過去の「PRの先輩に聞いてみた」シリーズ

■プロフィール
石井 裕太 (いしい ゆうた)
2001年、電通パブリックリレーションズ(現・電通PRコンサルティング)に入社。以来、環境から人権までさまざまな社会課題を起点にしたコミュニケーション戦略領域全般に携わる。現在は、社会的&経済的インパクトの両立を目指す企業のコーポレート・ブランディングに従事。「言いにくいことを言い合える関係」をつくるファシリテーションが得意。
パラスポーツの普及発展プロジェクトで、「PRアワードグランプリ2021」 「PR Awards Asia 2022」「国際PR協会Golden World Awards for Excellence 2022」などを受賞。2022 Asia-Pacific SABRE Awards審査員なども務める。

石井 裕太

「言いにくいことを言い合える」関係をデザインしたい

岩澤:パブリックリレーションズの世界に進んだきっかけは何でしょうか?

石井:学生時代に通っていた電通クリエーティブ塾で、PRに出合ったことがきっかけです。広告やCMよりも、「愛し愛される関係」をデザインするパブリックリレーションズの魅力に心を奪われまして(笑)、電通パブリックリレーションズ(現・電通PRコンサルティング)に猛アタックし、運良く新卒採用してもらいました。愛し愛される関係をデザインするPRを、今は「言いにくいことを言い合える関係をつくる」ことと捉えています。

入社してからは、クライアント窓口となるディレクション部門やラジオ・テレビとのメディアリレーションズの部署などで、企業や官公庁、非営利組織や地方自治体など、1,000以上のクライアントを担当してきました。僕はもともと、ビジネスで社会課題を解決することにチャレンジしたかったので、環境がテーマの国際博覧会や、障がい者アスリートの国際スポーツ大会が開催されるたびに、自分から手を挙げてチームに加わってきました。気が付いたら、社会課題(イシュー)起点の企画ばかりやってきた感じです。

岩澤:最近は、まちづくりのサポート活動にも取り組まれていると伺いました。

石井:全国から集まってくる若い起業家やアーティストたちと、地元の人たちが一緒になって「あったらいいな」を考え、未来の当たり前を一緒につくる地域再生活動に伴走しています。特に、過疎地域のまちづくりは「言いにくいことを言い合える関係づくり」がとても大事だなと感じていて、この先もずっとライフワークとしてやっていきたいと思っています。

コーポレート・ブランディングは「課題解決型」と「未来創造型」に分かれる

岩澤:クライアントから、どのようなコーポレート・ブランディングのご相談を受けることが多いですか?

石井:最近のご相談は、大きく2つに分かれます。一つは「こんな課題を解決したい」という課題解決型。原因の構造が複雑に絡み合っている厄介な問題に対して、量的・質的なデータに基づいた調査などで現状把握を行い、最適なソリューションを提案します。

もう一つが「こんな未来をつくりたい」という未来創造型。こうありたいという未来を一緒に考え、それを実現させていくあらゆる打ち手を、僕らがファシリテーションしながら一緒につくっていきます。企業の根幹となるパーパスの策定・浸透から始まり、組織の変革やイノベーションの創出など、その内容は本当に多岐にわたります。

岩澤:インタビューやファシリテートを通じて、クライアントの思考を深掘りしながら、ビジョン策定のお手伝いをすることも多いと聞きました。その際に、PR会社だからこそ提供できる価値とは何でしょうか?

石井:一言で言うと、「相手が見ている風景を想像すること」から発想するのがPRプロフェッショナルではないかなと思っています。そのためには、そもそも相手はどんなふうに世の中を捉えているのかという「問う力」が大切になります。

岩澤:ちなみに、社内で設立されたプランニング専門チーム「PRX Studio Q」が、チーム名に「Q」を掲げているのは、アルファベットのPとRの間にあるのがQだからです。つまり、PRプロフェッショナルのど真ん中にあるのが、問いのQということです。

石井:“よい”問いは、まだ言葉になっていないモヤモヤを言語化することにつながります。答えを引っ張りだすような問いではなく、自分の中から自然に言葉が湧きでてくるような問いです。そして、その過程をファシリテーションできるのが、僕らの強みだと思っています。

岩澤:クライアントと伴走する中で、PR会社はどんな役割を担えると良いのでしょうか?

石井:クライアントが中の人であれば、伴走者である僕らはあくまでも外の人なので、クライアントと僕らでは同じものを見ていても、違う視点でモノゴトを捉えています。それを価値にするのが、さっき言った「“よい”問い」です。

この問いは、例えると、クライアントが当たり前だと思っている自分たちのファクトでも、視点を変えると、とても価値あるものとして意味づけることができます。そのためには、どのような視点から「問い」を設定するかが極めて重要で、そこから新たな気付きを生み出していくことに意味があります。

外の人が一方的に答えを示したりするのでなく、自分たちの中にあるファクトを一緒に探求して、一緒に価値を見いだしていくプロセスです。大事なファクトは、いつもクライアントの中にあって、それはまちづくりでも同じことが言えます。そして、大事なことは単なる「問いかけ」ではなく、結果的にアクションが自然に生まれ変革につながる「“よい”問い」を投げかける。それが、僕らができる仕事だと思っています。

未来の価値創造を、社員一人一人が自分ゴト化する

岩澤:未来の価値創造をお手伝いする中で、具体的にどのような相談を受けますか?

石井:ここ数年で一番多いのが、パーパスを策定したものの、社員一人一人が自分ゴトにできていない、全社に浸透していないというご相談です。要は、トップダウンによる一方的な発信などで、社員が何となく分かったつもりになってしまっている、あるいは腹落ちしていないという悩みが多いですね。

岩澤:当社のシンクタンク「企業広報戦略研究所」が実施した調査結果を見ても、パーパスや企業理念が浸透していると答えた人は、全体の約4割。自社とのエンゲージメントが低いと感じている「低エンゲージメント層」に至っては、約1割というスコアになりました。

 「第3回インターナルブランディング®調査』
企業広報戦略研究所(電通PRコンサルティング内)2023年6月

石井:社員の会社に対する信頼の度合い(エンゲージメント)を強化する社内広報も重要なパブリックリレーションズの役割の一つです。これまでは使命、社是、フィロソフィなどと呼ばれていた理念体系が、今はパーパスやビジョン、ナラティブという言葉に置き換わっているだけで、社員一人一人が目指す未来と会社のありたい姿の接点を自ら探求し、社員と会社がより良い関係をつくり合うというテーマは、いつの時代も変わらないPRの本流です。

“ブラインド・コミュニケーション”という新たなアプローチ

岩澤:パーパスを自分ゴト化するお手伝いとして、どのような提案をするのですか?

石井:会社だけではなく、商品やサービスも同じですが、なぜ社会に存在するのか、そしてこれからどうなっていきたいのかを、自分の中できちんと解釈して、自ら言葉を尽くして言語化するステップが必要です。それは人為的に時間と場をつくらないと、なかなかできるものではありません。誰もが日々の仕事や生活で忙しいですから、「そもそも」をきちんと考えている暇もない。

そこで、社員一人一人が自分と会社のパーパスを問い直すためのワークショップ『ビジョン・クエスト』を企業やコミュニティに提供しています。このワークショップは、見える世界と見えない世界をつなぐブラインド・コミュニケーターの石井健介さんたちと当社が一緒に独自開発したプログラムです。

■プロフィール
石井 健介(いしい けんすけ) 氏
ブラインド・コミュニケーター
1979年生まれ。アパレルやインテリア業界を経てフリーランスの営業・PRとして活動。2016年の4月、一夜にして視力を失うも、軽やかにしなやかに社会復帰。『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』での勤務を経て、2021年からブラインド・コミュニケーターとしての活動をスタート。見える世界と見えない世界をポップに繋ぐためのワークショップや講演活動、またラジオパーソナリティなども務めている。
https://kensukeishii.com/

石井:このワークショップでは、10~15年後の203X年から逆算して、「自分のこうありたいな」と思うこと(マイ・パーパス)と、「会社のこうあったらいいな」(コーポレート・パーパス)の接点を、同僚との対話を通じて自ら発見し、自分なりの言葉で言語化していきます。

特長の一つは、視覚を遮断することで、誰もが持っている潜在的なクリエイティビティを最大限に引き出し、内省と言語化を促す点にあります。

岩澤:なぜ視覚なのでしょうか?

石井:心理学の世界に、「メラビアンの法則」というものがあって、コミュニケーションで最も大きく影響するのが視覚情報で55%、次に聴覚情報38%、言語情報7%と続きます。

このプログラムでは、先入観を生みやすい視覚を閉ざすことで新たな視点を生み出しやすい環境をつくるのが目的です。そしてコミュニケーション回路を聴覚と言語に絞ることで、より深く探求する機会を創り出し、自分への問いを明確にしていきます

 具体的には、参加者はアイマスクを着けて視覚を遮断した状態で言葉だけで対話する“ブラインド・コミュニケーション”という方法を用いて、PRコンサルタントとブラインド・コミュニケーターが連携してファシリテーションしていきます。

そこで、自分や会社が何を大事にしていたいのか、これからどうありたいのかを問いかけ、内省するプロセスを創り出し、一人一人が自分らしい言葉を探求し、言語化するお手伝いをしています。

これにより、まだ言葉になっていないモヤモヤした気持ちや、当たり前過ぎて意識していない価値観、経験的に使っているけれど言葉で説明できない「何か」を浮き彫りにしていきます。また、自分とは違う立場や個性を持つ人たちの言葉を聞き、新しい視点が入ることで、そこから問いが深まり気付きが生まれる、そんな場づくりの支援を行っています。

岩澤:以前、当社でも実施しましたね。私も参加しました。

石井:20人くらいの社員で、「そもそも」を考えるワークショップを実施しましたね。自分と会社がこれからも大事にしていきたい「そもそも」と「これから」を考えるための場をつくり、無意識の想いを言葉にするファシリテーションを行いました。

ワークショップの様子

ワークショップの様子は、こちらから聴くことができます!

岩澤:無意識の部分をファシリテートいただいたことで、自身や他者と深く対話できた気がします。普段考えてもいなかった思考の深部にたどり着くことができて、いろいろな価値観を持つことの大切さが実感できる経験でした。ワークショップのダイジェストを音声コンテンツにし、社内広報で活用するなど、音声でのコミュニケーションは可能性を秘めていますね。

石井:これだけ視覚情報があふれる時代だからこそ、ブラインド・コミュニケーションが効くのだと思います。ちなみに、パーパスの社内浸透以外に、社長や社員がアイマスクで目隠しした状態でブラインド・コミュニケーターと対談すると、文字や写真などの視覚情報では伝わらない、“本音や本心”が届けられるということで、「聴く社内報」や「聴く採用広報」として音声コンテンツを制作したいというご相談も頂くようになりました。

ちなみに、『ビジョン・クエスト』以外にも、生活者や社員の鬱憤(うっぷん)や不満を引き出すワークショップ、イノベーションのアイデアを創出するPR思考のワークショップなど、さまざまな伴走プログラムがあります。課題やご相談に合わせて、さまざまな方法をご提案し、対話しながら最適化していきたいですね。

岩澤:当社では、さまざまなアプローチのプログラムを用意しています。クライアントの皆さんと一緒に、気付いていなかった未知の発見をつくり出していきたいですね。石井さん、どうもありがとうございました。


最後までお読みいただきありがとうございました。

PRX Studio Q (電通PRコンサルティング)では、企業やブランドのPR戦略立案から企画、実行までをワンストップで対応いたします。今回の記事でご紹介した『ビジョン・クエスト』やPRスキルアップセミナー、アイデア発想ワークショップなども実施しています。ご要望に合わせて柔軟に対応いたしますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。